2017年10月、鳥取の秋巡業中に行われた酒の席で、横綱日馬富士が貴ノ岩に暴行を加えたていたことが11月14日に分かり、各メディアがトップニュースで伝え話題になっています。

 

事件後10日以上経った11月5日に貴ノ岩は急遽入院され、脳震盪や頭蓋底骨折含む「全治2週間程」の診断結果が公表されました。(参考)

 

今回は、貴ノ岩の診断内容の考察と、頭部殴打による後遺症のリスク・対処法などを医師に解説をしていただきました。

 

目次

 

 

貴ノ岩の診断内容の考察

脳震盪(のうしんとう)

脳震盪

 

震盪とは揺れ動くという意味です。頭に強い力がかかることで起こります。

「ボクシングで頭やあごを殴られたり、ラグビーで相手とぶつかった直後に意識を失い、しばらくすると意識が戻って、特に後遺症はない」という状態が思い浮かびますが、必ずしも意識を失ったり、後遺症がないという訳ではないです。

 

症状は直後ではなく24〜48時間以内程度なら新たに出現することがあり、CTやMRIでは脳に出血や傷はありません。

 

主な症状

頭痛

めまい

・動きが鈍い

・見え方がおかしい

吐き気

・眠気

など

 

意識がもうろうとする程度も様々で、機嫌が悪いとか記憶力が落ちたとか、状況が把握できないという場合もあります。

 

左前頭部裂傷

頭部の裂傷

 

頭の左前のほうのどこかに裂けたような傷があるということです。この言葉だけでは傷の重さ(縫合が必要かどうかなど)は分かりません。

 

右外耳道炎

外耳道

 

外耳道は耳たぶから鼓膜に続く筒状の道で、外耳道炎は耳かきのしすぎなどで傷がついたところに炎症を起こして起こることが多いです。

 

今回の場合は、耳に受けた傷に感染や炎症が起こったということなのかもしれません。 

 

右中頭蓋底骨折

頭蓋骨

 

頭蓋骨は脳を包む骨と顔面の骨でできていますが、頭蓋底は脳を包む骨の底にあたる部分です。前から順に前・中・後頭蓋底となります。

 

中頭蓋底は、鼻から綿棒を入れて奥に進んでいくと突き当たる部分です。もしくは左右の耳をつないだ中心あたりと言ってもいいでしょう。

 

頭蓋底の骨は奥深くにありますので、今回の件は、直接殴って折れたわけではなく、体の表面に加わった力が、骨を伝わり、力が集まった部分が折れたということだと思われます。

 

髄液漏

脳脊髄液

 

脳の周囲には脳脊髄液という液体があり、髄膜という膜に覆われています。髄膜は頭蓋骨の内側にへばりついています。

 

豆腐のように柔らかい脳は、そのまま頭蓋骨の中にあると衝撃に弱いため、周りを水で覆っているのです。この髄膜が破れれば、脳脊髄液が漏れ出すことになります。

 

頭蓋底の骨が折れたことで、骨折部位に近い髄膜に力がかかり、液が漏れ出したのでしょう。漏れた髄膜は、鼻から漏れてくることがあり、血が混じった鼻水のように見えます。

 

漏れた髄液はまた産生されますし、髄膜の傷もふさがりますが、ふさがるまでの間は細菌が脳に入りやすくなり、脳炎や髄膜炎を起こしやすいと言えるでしょう。

 

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※2017年11月17日の追加報道にて、実際には頭部の骨折や髄液漏はなかったという報道がなされました。今回の記事は、当初の報道に基づいて記載しております。

 

 

「全治」の考え方

考える医師

「全治」は医学用語ではない

今回「全治2週間」という言葉。これはひとまず2週間は診察や治療を受ける必要があるという意味と思われ、2週間で治りますよ、相撲の稽古ができますよという意味ではありません。

 

そもそも「全治」「完治」といった言葉は医学用語ではなく、少なくとも大学での医学教育や卒業後の研修医教育の中で、「この程度のケガは全治〇カ月でしょう」といったような教育は一切受けていません。

 

骨が一箇所折れただけなどの単純なケガの場合や、交通事故でのむち打ちなどについてはおおよその指標はありますが、今回のような頭部のケガを含む場合や、複数箇所のケガの場合は特に判断が難しいでしょう。

 

医師の「全治〜」の診断で罪の重さも変わる?

警察がケガ人に付き添って病院に来た場合、診察もそこそこに「先生、全治期間は?」と聞いてきます。患者さんも、初回の受診で「全治期間を書いた診断書を」と言われますし、保険会社も全治期間を大変気にします。

 

医師が全治何週間と言うかによって、重症かどうかが決まり、加害者の罪の重さも変わると聞いたこともあります。

 

しかし、そのような予想はそもそも不可能です。ケガ、外傷の状況は人それぞれですし、個人の回復力や療養に向かう姿勢も違い、何をもって治ったというかも違います。

 

 

頭部を殴打した場合に懸念される後遺症 

脳の後遺症

 

頭部には、脳、脳の血管、細く張り巡らされた神経、眼球・耳・鼻などの繊細な感覚器官などがあります。命は助かっても、起こり得る後遺症は多種多様です。

 

また、後遺症については半年や一年といった長い目で経過を見ないと予測は難しいです。

 

運動をつかさどる部位に異常が起これば麻痺が残りますし、思考や人格をつかさどる部位に異常が起これば、性格が変わったり記憶ができなくなります。

 

目を打撲した場合、眼球破裂で一瞬で失明することもあります。目に直接打撲がなくても、眉のあたりに力が加わると、骨を伝って視神経に力が伝わり、失明に近い状態まで視力が下がることもあります。

 

 

頭部を殴打した場合の対処法・応急処置

人工マッサージ

 

安全な場所に寝かせ、意識状態や呼吸・脈拍の状態を確認します。頭や首は極力動かさないようにしたいですが、呼吸や脈拍が不安定なら、胸骨圧迫(心臓マッサージ)や気道確保が優先されます。

 

意識・呼吸・脈拍が不安定なようであればすぐ救急車を要請します。意識があり歩けるような状態でも、2〜3日は一人にせず、様子を見守ることが必要です。

 

 

最後に医師から一言

頭部のケガ

 

自分で転んでケガした場合と、他人に転ばされてできたケガでは、同じ状態まで回復しても「治った」と思えるかどうかは違うでしょう。

 

医師の言う全治期間はあくまで目安であり、何かを保証するものではないことを理解して頂きたいと思います。

 

(監修:Doctors Me 医師)