「潔癖症」と聞くと、度を越したキレイ好きというイメージが強く、個人の性格の問題と考えられることも多いかもしれません。
実は、医療のサポートが必要な潔癖症は「強迫性障害」と呼ばれる病気で、家族も含めた周囲の方の理解がないと症状が悪化してしまうケースもあるそうです。
今回はこの潔癖症と強迫性障害について、この領域に詳しい精神科医の井上智介先生に治療法や周囲のケアについて解説していただきました。
潔癖症と強迫性障害
日常生活に影響を及ぼすまで進んだ潔癖症は、医学的に強迫性障害という疾患に分類されます。
強迫性障害とは
強迫性障害は自分の頭では、「バカバカしいこと」だと分かってるのですが、強く迫ってくる考え(強迫観念)に逆らえずに、そのまま行動を行ってしまう疾患です。
たとえば、「病気になるから、手を完璧に洗わないとダメだ」という考えに支配されてしまって、何十分もずっと手を洗ってしまうことがあります。それによって仕事や勉強や家庭生活の時間が削られたり、疲れ果てしまったりするのです。
汚れたモノに触れたという思い込みに支配されるだけではなく、自分がばい菌をまき散らして他人に迷惑をかけているのではないかと心配に思う人も多くいます。
強迫性障害になってしまう原因は、脳の神経伝達物質の低下や神経回路の誤作動に加え、育った周囲の環境やストレス、生活習慣など複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
小学生~中学生の時期と20歳頃に発症するケースが多く、10代では男性に多く、20代では女性での発症が多くなっています。*
キレイ好きとの違いは?
キレイ好きは性格の基盤となる趣味嗜好であって、強迫性障害とは全く異なります。
強迫性障害は自分でもバカバカしいと思っていても止めることができずに、学業や社会生活に大きな支障をきたしている状態をさします。この疾患の原因は脳内伝達物質の影響と考えられているため、性格としてのキレイ好きとは直接的な関係はありません。
強迫性障害にはどんな医療のサポートが必要?
強迫性障害の治療は主に薬物療法と認知行動療法が用いられます。
具体的には、薬物療法ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というタイプの薬が使用され、認知行動療法では曝露(ばくろ)反応妨害法を行っていくことが一般的です。
強迫性障害の症状は脳内にある神経伝達物質であるセロトニンの低下によって引き起こされていると考えられており、SSRIはセロトニンが減少しないように調整された薬になります。
認知行動療法は考え方を修正することで行動を変えることが目的とされています。ただし、強迫性障害の治療は1年以上になることも珍しくないので、信頼できる医師を選ぶことも大切です。
もしかして強迫性障害かも?と思ったら
病院に行ってみる
もしも自分やまわりの人がキレイ好きではなく強迫性障害なのかも、と悩んでいる方がいたら精神科や心療内科を受診してください。早期発見が快方に向かう唯一の方法というわけではないですが、なかには治療を開始しないと悪化する人もいます。また他の精神疾患が隠れている可能性もあるので、受診してみましょう。
家族の「サポートしすぎ」に要注意
「ドアノブを触りたくないから家の全ての扉の開閉を任せる」など、症状に家族を巻き込んでしまうタイプの患者さんがいます。そのようなときに家族が手伝ってしまうと強迫行為を助長するので注意が必要です。
ご家族は無視や非難することもせずにバランスよく対応してください。例えば、「私たちも疲れるからこれ以上はできないよ」などと限界のラインを提示することが大切です。
周りに伝えておく
家庭外でも、子どもであれば学校との連携が必要になります。教師だけでなくスクールカウンセラーなどにも相談してください。職場ならば人間関係の縛りもあると思いますが、上司などのキーパーソンには相談しておいた方がよいでしょう。
最後に井上先生から一言
強迫性障害は、自分自身でも無意味なことと分かっているのに、止められないといった苦痛を伴うものです。
目覚ましい科学技術と研究の発展によって、より病態に迫るような知見が得られました。その結果、効果的な薬物療法や認知行動療法を確立することができていますので、悩まれている方は医療機関の受診をお勧めします。
参考資料
* 成田善弘(1995)『OCD:精神医学レビュー No.14』ライフ・サイエンス
* Black, A. (1974). The natural history of obsessional neurosis. In H. R. Beech (Ed.), Obsessional states. Oxford, England: Methuen & Co.
プロフィール
- 監修:医師 井上 智介
- 島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。