人は誰でも、気分の浮き沈みがあるものです。仕事で失敗したり、友人と喧嘩をして気分が落ちこんだり、疲れが溜まってやる気が起きなかったりと、元気が出ない日もあるでしょう。
日々感じるこのような気持ちの中で、「これはうつ病なの?」と思ったとき、どう判断すればよいのでしょう。また、医師はどうやってうつ病と診断するのでしょうか?
今回は、うつ病の診断基準について、精神科医の井上智介先生に話を伺いました。
医師はどうやってうつ病の診断をするの?
うつ病の診断は、血液検査や画像検査などですぐにわかるものではありません。
精神科医や心療内科医などの専門的な知識をもった医療者が、患者さんに起こっているエピソード(病相)を丁寧に拾い上げて診断にいたります。
ただし、そのエピソードも患者さんの主観が含まれている場合があるため、家族や上司、友人など周囲の人から話を聞くことがあります。
うつ病の診断基準
うつ病の具体的な診断基準としては、次の9つの項目から5つ以上当てはまるか確認します。
当てはまる項目が2週間以上続いていれば、うつ病を強く疑います。
1. 抑うつエピソードがないか
患者さんが、悲しみ・空虚感・絶望などを1日中感じていないか確認します。また、他者からみて、毎日のように涙を流していないかなども確認します。
2. 興味の喪失がないか
趣味も含めたすべての活動において、毎日興味や喜びを感じられているか確認します。
3. 食欲や体重の変化
1カ月に5%以上の明らかな体重減少・増加がないか確認します。また、毎日の食欲の増減もチェックします。
4. 睡眠の変化
毎日の睡眠で睡眠障害が起きていないか確認をします。眠れないだけでなく、過眠の場合も睡眠の変化と捉えます。
5. 精神的な変化
毎日のように何かに対して常に焦りを感じてソワソワしたり、逆に全く何にも反応しないように行動を制止したりしていないか確認します。
ただしこれは、患者さん自身からの意見ではなく、周囲の意見から確認する項目です。
6. 活力の減少
毎日が疲れた気持ちでいっぱいになっていないか、何事に対しても気力が落ちていないか確認をします。
7. 罪悪感がないか
自分に全く価値を見出せない状態になっていないか、もしくは、過剰に罪悪感を持っていないか確認します。
8. 思考・決断力の低下
思考や判断力の低下は、患者さん自身が気づくことから、周囲が気づく場合もあります。今まであった決断力がなくなることで、何をするにも時間が余計にかかることがあります。
9. 死について考えていないか
今は計画を立てていないが、ぼんやりとでも自殺について考えていないかを確認します。さらに、自殺をするために明確な計画を立てている場合は、緊急性があると判断します。
診断時に気をつけていること
上記の項目に全て当てはまったとしても、それだけでうつ病と診断されるわけではありません。
上記の症状については、患者さん自身の判断が入ってくることがあります。そのため、医学的な苦痛か、社会的・職業的に何らかの障害を起こしていないかについても確認が必要です。
さらに、薬の副作用や、その他の病気などが原因で、上記のような症状が出ていないか確認する必要があります。
うつ病にそっくり…でも、うつ病ではない場合
うつ病に類似した症状が現れるのは、以下のような場合です。
似た症状の病気
甲状腺や副腎ホルモン、免疫の異常、肝臓や腎臓の重い病気などのときは、うつ病に似た症状が現れることがあります。そのため、病院を受診して血液検査などを受ける必要があります。
うつ病のような症状は、もとの病気の治療によってよくなっていきます。症状があるからといって、うつ病だと思い込まないでください。
薬の副作用
ステロイドなどの薬の副作用で、うつ病に似た症状が現れることがあります。薬の服用中にうつ病のような症状が出たときは、必ず主治医に相談してください。
ストレス
親しい人との死別や経済的な破綻など、ストレスや心因性ショックによって、一時的にうつ病と同じ症状を起こすことがあります。
しかし、あくまで一時的であり、一定の期間が過ぎればよくなることが多いです。
あまりに症状がひどい場合は、受診して一時的に薬を飲む必要があります。しかし、軽い睡眠導入剤くらいで、継続的な治療が必要になることはほとんどありません。
もちろん一時的にうつ病のような症状を起こした人の中には、このことがきっかけとなり本格的にうつ病を発症する人もいます。
そのような場合でも、早めに適切な治療を開始すれば、軽症で済む可能性があります。
うつ病かもしれない…と思ったら、どうすればいい?
「うつ病かな…」と思ったときは、近くの精神科や心療内科を受診しましょう。
実際は、精神科の受診に躊躇してしまう人がたくさんいます。そのため、重症になってから初めて病院に来るという人も少なくありません。
そうならないためには、まずは信頼できる人に今の自分の状態を相談してみましょう。精神科受診の背中を押してくれるかもしれません。
また、今はインターネットで医師に相談できる時代です。受診すべきかどうか迷ったときは、活用してみてください。
うつ病は、進行するとうまく頭が回らずに正しい判断ができなくなります。そうなる前に、一人で抱え込まずに、相談できる相手を心に決めておきましょう。
最後に井上先生から一言
年々うつ病の患者さんは増えています。これだけ便利に多様化された世の中になった反面、我々は重度なプレッシャーを抱える場面が増えてきました。
うつ病になる前に、過酷な環境から逃げることや休養をとることも立派な予防や治療です。
うつ病かもしれないと思ったら早めに受診してください。精神科や心療内科は怖いところではありませんよ。
プロフィール

- 監修:医師 井上 智介
- 島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。