女性の体は、女性ホルモンに大きく影響を受けています。加齢により女性ホルモンの分泌量が減少することによって日常生活に支障が出る更年期障害を起こすことがあります。
今回は、更年期障害が起こるメカニズムや気をつけたい症状などについて、佐藤晴香先生に詳しく解説していただきました。
更年期障害とは?
女性の平均閉経年齢は50歳で、閉経前後の10年間にあたる時期が更年期と呼ばれます。更年期障害とは、更年期にみられるさまざまな症状や体調の変化で日常生活に支障が生じている状態を指します。
更年期障害の症状
更年期障害は、性格やストレス、環境などにも大きく左右され、人それぞれ症状や重症度は異なります。症状がつらい場合は、我慢せずに婦人科で相談しましょう。
更年期障害では、閉経が近づき生理不順が始まるのと前後して以下の症状が現れます。
身体的な症状
・ほてり(突然顔が熱くなる)
・のぼせ
・発汗
・ホットフラッシュ
・冷え
・めまい
・動悸
・頭痛 など
このほかに、粘膜が弱くなることで、外陰部のかゆみや性交痛、肌の乾燥、かゆみなどもみられます。
精神的な症状
・イライラ
・抑うつ
・不安感
・無気力
・不眠 など
更年期にみられる不正出血に注意!
閉経前後は、生理周期が乱れます。そのため、生理と不正出血の見分けが難しくなります。ここで気をつけたいのは、子宮や卵巣の病気です。子宮体がんなどの病気による不正出血を見逃してしまう場合があります。
普段と違う出血に気づくためにも、生理があった日にち、経血量、体の変化などは、日記やアプリなどに記入しておくと受診の際に役立ちます。不正出血が見られた場合は、放置せずに婦人科を受診するようにしましょう。
更年期障害の原因
更年期障害が起こる主な原因は、ホルモンバランスの乱れです。女性ホルモンである「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の分泌をコントロールしているのは、脳の視床下部にある下垂体と呼ばれる部分です。
下垂体は、卵巣にエストロゲンを分泌するよう指令を出しています。しかし、40歳を過ぎた頃から卵巣機能は低下し始めます。下垂体が指令を出しても、卵巣は徐々にエストロゲンを分泌できなくなるのです。
このように、脳が指示を出して卵巣がそれに応えるというバランスが崩れるため、体の不調や精神の不安定として現れます。
更年期障害の診断方法
血液検査で女性ホルモンをチェックします。自覚症状がある場合は、更年期スコアをつけることで診断ができます。
更年期障害の治療
自分に合ったリラックス法や運動、趣味に没頭したり、ストレスのない環境に変えたりすると症状が緩和することもあります。
しかし、更年期症状で日常生活に支障が出ているほどの場合は、主に以下に挙げる治療を行います。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法とは、減少した女性ホルモンを薬で補うことで症状を改善する治療法です。
子宮がある方は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の両方を用います。子宮がない方は、エストロゲンのみを用います。
ホルモン補充療法で用いるホルモン剤には、飲み薬や貼り薬、塗り薬などがあります。一人ひとりの希望やライフスタイル、症状などによって処方される薬は異なります。
のぼせやホットフラッシュ、粘膜や肌の乾燥が改善され、外陰部の違和感や性交痛にも改善がみられます。また、ホルモン補充療法は、長期的に行うと認知症や骨粗しょう症の予防になることがわかっています。
薬の飲み始めの時期に、副作用として不正出血や胸の張りなどがみられる場合がありますが、時間とともに軽快していく場合が多いです。
【ホルモン補充療法を受けられない方】
ホルモン補充療法は、更年期の女性すべてが受けられるわけではありません。子宮体がんや乳がんの治療中の方、過去に乳がんの治療を受けた方、心筋梗塞、脳卒中、重度の肝臓病を患った方などは行うことができません。
漢方薬
漢方薬で血や気の巡りをよくすることで、頭痛や肩こり、めまいや気分の落ち込み、のぼせやほてり、動悸などの症状を緩和していきます。
体質や体格などを考慮して、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸などの漢方が用いられます。
漢方薬は、体質に合えば上手く症状が改善されるため、一人ひとりに合う薬の見極めが重要です。漢方専門医に相談するとよいでしょう。
抗うつ薬・抗不安薬
精神症状が強い場合は、抗うつ薬や抗不安薬を使用することがあります。日常生活で悩みを抱えている場合は、心理カウンセリングも行うことがあります。
最後に佐藤先生からメッセージ
更年期の症状は、ホルモンの低下に体が慣れないと起きる病気であり、誰でも通る可能性があります。
あらゆる症状を放置せずに、医師に相談し、あらたなライフステージに入ったと考え、明るく乗り越えていきましょう。
プロフィール
- 監修:医師 佐藤 晴香
- 帝京大学溝口病院にて初期研修後、同大学病院で、産科、婦人科、不妊治療、新生児医療を学ぶ。専門分野は、 月経異常、月経痛、一般不妊治療、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、おりものの異常、性感染症、更年期障害、子宮外妊娠など。