梅毒をはじめとする、さまざまな性感染症の患者さんが増加しています。女性の場合は、将来的に不妊や赤ちゃんへの影響もあるのだとか…。
そこで今回は、性感染症について松浦恵先生に解説していただきました。
性感染症(STI)とは?
性感染症は英語で「Sexually Transmitted Infection(STI)」と呼ばれます。Infection(感染)ではなくDisease(病気)で「STD」 と呼ぶこともあります。
病気の元になる菌やウイルスは、体液(精液、膣分泌液、血液など)の中に含まれており、性行為をすることで粘膜(陰茎、膣、肛門、尿路など)から感染します。
粘膜や分泌物に密に接触する状況で感染が起きるため、性器による性交だけでなく、オーラルセックス、ディープキスなどによっても感染します。一方で、性行為以外の日常生活においては、通常感染しないことが特徴です。
子宮頸がんの原因として知られるHPV(ヒトパピローマウイルス)も性行為によって感染します。
主な性感染症を知ろう!
梅毒
梅毒は、トレポネーマ・パリダム(TP)という病原体が原因で起こります。主に性行為(キスも含む)で感染します。潜伏期間は約3週間で、感染部位(性器、口、肛門、手指など)に痛みのないびらんができます。
治療せずに数カ月経過すると、手のひらや足の裏、体全体に赤い発疹(バラ疹)が出ることがあります。発疹は数週間以内に自然に消えることがありますが、抗菌薬で治療しない限り病原菌は体内に残ります。
感染している女性が妊娠すると、胎盤を通して母子感染し、生まれてくる子が「先天性梅毒」になることがあります。治療を受けていなければ、胎児に胎盤を通して感染する可能性は100%に近く、40%は死に至ると言われています。
性器クラミジア感染症
クラミジアは、性感染症の中で最も多い感染症です。感染しても無症状であることも多く、気づきにくいことが特徴です。男性は50~60%ほど、女性では約80%が無症状と言われています。
クラミジアは、喉や直腸、尿からも感染するため、口や肛門、尿を使った性行為でも感染が起きます。おりものが少し増える、黄色いおりものになる、軽い生理痛のような痛みが出るなどの症状から診断されることがあります。
感染に気づかずにいると、子宮頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎などに進行し、不妊、流産、早産などの原因になってしまいます。
性器ヘルペスウイルス感染症
ヘルペスウイルスは、Ⅰ型(唇周囲、口内炎などのヘルペス)とⅡ型(性器ヘルペス)に分類されています。オーラルセックスなどにより、口から性器、性器から口へ感染することがあります。
原因となる性行為から3~7日後に外陰部痛があり、その後外陰部に左右対称性の発赤、水疱、潰瘍ができます。その際に、高熱を伴うこともあります。通常は2~3週間で症状は落ち着きます。
しかし、一度感染すると、ウイルスは神経に潜んでしまいます。体の抵抗力が落ちたときにウイルスが再活性化し、繰り返し発症することがあります。
淋菌感染症(淋病)
淋菌の感染力は強いです。菌は咽頭や直腸、尿にも排出されるため、口や肛門、尿を使った性行為からも感染します。
症状は、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎が最も多いと言われています。女性では、おりものの増加や不正出血、あるいは症状が軽く気づかないことも多いです。しかし、不妊の原因となることがあるため、注意が必要です。
咽頭では、症状がないまま感染源になることがあります。膿や分泌物のついた手で目をこすると結膜に感染し、結膜炎を起こします。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマとは、ヒトパピローマウイルス(HPV)6型、11型による感染症です。性行為の際に皮膚や粘膜から感染します。
3週間~8カ月くらいの潜伏期の後に、外陰部や会陰、肛門周囲、膣、子宮頚部などに、ニワトリのトサカのような腫瘤ができます。
自覚症状としては、腫瘤に気づくだけの場合もあります。
HIV感染症・AIDS
HIVは、血液や精液、膣分泌液に多く含まれており、粘膜や傷口から感染を起こします。主に性行為、母子感染、注射針の回し打ちなど、血液を介する感染経路によって感染します。
HIVに感染すると、免疫機能が徐々に破壊されます。数年~10数年経過すると、免疫減少から、多くの感染症にかかりやすい状態になります。この段階を、AIDS(後天性免疫不全症候群)と呼びます。
もしかして性感染症かも…?
近年、性感染症は増加傾向にあります。10代未婚女性の妊婦では、4人に1人以上がクラミジア陽性と言われています。しかし、これは病院を受診して診断された数に限った割合です。自覚症状がなく、受診もしていない患者さんは、この約5倍いると推測されています。
特に女性では、放っておくと不妊症などの原因にもなります。「早期発見」、「早期治療」が大切です。少しでも不安なことがあれば、婦人科に相談してください。性感染症は早めに治療すれば治りやすく、後遺症を残さずに治癒します。
できればパートナーも一緒に検査を行い、必要があれば治療を受けることをおすすめします。
女性には、性感染症以外にも婦人科系の病気の検診として、1~2年に1度はがん検診がすすめられます。そのような際に、相談するのもよいでしょう。
性感染症にならないために
性感染症の予防には、STEADY SEX(性的パートナーを限定すること)と、SAFER SEX (より安全なセックスをすること)が大切です。
パートナーの限定は、感染予防のために大切なことです。一生のうち複数のパートナーと性交渉がある、短期間でパートナーが変わるなど、性の多様化などが性感染症を増やしている原因とされています。性的パートナーを恋人や配偶者などに限定することは、自分の体を守ることにつながります。
また、コンドームは、感染している人の精液や膣分泌液が口や性器の粘膜に接触することを防ぐ、バリアの役割があります。コンドームで予防できない性感染症も一部ありますが、現実的で確実な方法です。
最後に松浦先生からひとこと
性感染症は、予防と早期発見、早期治療が何より大切です。まずは検査を受けて、自分の状態を知っておきましょう。
HIV感染症をはじめ、性感染症の検査は、医療機関だけではなく保健所でも行うことができます。パートナーが変わったら、性感染症の予防のために、その都度検査を受けることがすすめられています。
プロフィール
- 監修:医師 松浦 恵
- 北海道大学医学部卒業後、大学病院、小児病院などで勤務したのち、東京医科歯科大学大学院を卒業。研究を続けながら、成長発達、思春期、内分泌疾患を中心に、健診や予防接種も含めた臨床に携わっている。