日本全体の自殺者数はさまざまな対策により減少し、2012年以降3万人を割るようになりました。一方で、1020代の自殺者数は横ばいです。子どもの人口が減っていることを考慮すると子どもの自殺率は上がっています

 

子どもは自殺を考えたとき、どのようなSOSサインを出すのでしょうか。そして、そのSOSサインを大人はどう受け止めるべきなのでしょうか。井上先生に解説していただきました。

 

 

学生の主な自殺原因

2007年以降、厚生労働省は自殺の原因・動機の情報を集めて発表するようになりました。19歳以下の自殺者の理由は、第1位が『学校問題』であり、『健康問題』、『家庭問題』と続いています。また、学校問題の具体的な内訳としては、『学業不振』、『進路の悩み』、『学友との不和』の順番になっています。

 

統計上は、いじめが理由の上位に挙がってきてないことを不思議に思う人も多いでしょう。これは遺書などから警察庁が自殺の理由をしっかり断定できたものだけをカウントしているからではないかと考えられます。

 

 

子どものSOSサイン

 

子どもを含めて自殺に至る人には、いくつか共通の心理状態があることが知られています。

 

1:孤立・無価値を感じる

子どものなかには、自分からSOSを出すことができずに、周囲に助けてほしいと伝えられない子もいます。子どもながらに、「親に相談しても解決できないだろう」と、心を閉ざしてしまうこともあります。そのようなときは、次のような様子や言動に注意してください。

 

・口数が減り、声も小さくなっている

・常に表情が浮かなく、感情の起伏がない

・身だしなみに気が回らない

・「生きる意味がわからない」と口にする

・「誰も必要としていない」という

 

2:今の辛い状況がずっと続くと感じる

今の辛い状況を何とかしようとしても、解決できない状況が続いているとき、次のような言動に注意してください。

 

・体が常にだるそう

・「自分なんか、何もできない」と絶望を口にする

・絶えずイライラしている

・自分を傷つける

・食欲が減ったり、逆に増えたりする

・睡眠も安定せずに、朝起きるのが辛くなる

 

3:あきらめを感じる

状況を改善するために色々と考え行動したが全く上手くいかず、ヘトヘトに疲れてしまった状態が「あきらめを感じる」です。このときは、孤独感、イライラ感さえも失っています。一見すると落ち着きすらあるように見えるため、十分に注意が必要です。

 

「もう何もしても無駄だし、ここまできたら、もう自殺しかやることがない」と考えていることもあり、非常に危険な状態です。次のような言動に注意してください。

 

・自殺をほのめかすようなことを言う

・自暴自棄になる

・好きだったモノなどを捨てたりする(身辺整理)

 

 

SOSサインに気づいたら

 

子どもの不調に気づいたとき、その訴えに真剣に向き合って、本人の辛さに共感し、サポートする姿勢が伝わるように接してあげてください。自分の悩みを打ち明けるのは、本当に勇気のいる行動ということが伝わるように、素直に不調に関して打ち明けてくれたことに感謝の言葉をかけてあげてください。

 

悩みを聞く方は、何か助言をしたほうがよいと思うでしょう。しかし、まずはひたすら聞き役になってください。小さい相槌を打ちながら、話を要約したりして、こちらが理解していることが、子どもに伝わるような姿勢を続けてください。

 

子どもの不調は、決して親や学校の教師だけで乗り越えるものではありません。地域の保健所や保健センター、都道府県などに設置されている精神保健福祉センターなど協力を得ながらみんなで乗り越えるものです。

 

また、心の不調には、子どもであってもうつ病など精神疾患が背景にあることも珍しくはありません。そのため、精神科医などのよる医療的な介入が必要な場合もあります。病気に応じて、薬物治療・精神療法で改善することがあります。

 

 

最後に井上先生から一言

子どもから自殺をほのめかすようなことを言われたら、どんな親であっても気が動転してしまいます。ただし、そのときに安易に励ますこと、「命を粗末に考えるな!」などと説教することは、絶対にやめてください。子どもが、これ以上は大人に相談しても無駄だと思い込み、誰にも悩み打ち明けられず、ますます状況が悪化してしまいます。

 

SOSサインに気づいたら」の項目で記載したように、話を真剣に聞くといった対応をベースに、一人だけではなく多くの専門家を交えてチームで解決する問題であることを絶対に忘れないでください。

 

参照

 厚生労働省:自殺の統計

プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。