「薬物依存」と聞いて、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
覚醒剤や大麻、病院で処方される薬だけではなく、今日、身近な存在である市販薬への依存症が深刻化しています。ドラッグストアやインターネット上で手軽に購入できることから、風邪薬や咳止め薬などの乱用が10代を中心に問題となっているのです。
薬物乱用・薬物依存とは
薬物乱用とは、薬物を本来の目的とは違う用途で使用したり、医療目的でない薬物を不正に使うことです。
これに対し、薬物依存とは、自分の意思で薬物の使用をコントロールできない状態を指します。
乱用を繰り返した結果、依存が生じます。依存は精神依存と身体依存に大別されます。
一般用医薬品でも依存症になるの!?
一般用医療医薬品に使用される成分のうち、依存性の原因となることが知られているものの一部が「濫用等のおそれのある医薬品」として指定されています。
一般用医薬品は用法通り正しく服用していれば問題ありません。
ただし、長い期間飲み続けたり、一度に大量に摂取したりすると、気づいたときには薬物依存の状態になっている恐れもあります。
また、市販薬の依存の特徴として、やめたくてもやめられないといった依存症候群が非常に多いことが問題になっています。
厚生労働省の「薬物関連精神疾患の実態調査」では、市販薬乱用の患者が急増していることが明らかになりました。
厚生労働省「濫用等のおそれのある市販薬の 適正使用について2019」
乱用に注意したい一般用医薬品の成分
咳止めシロップ
麻薬性鎮咳薬のジヒドロコデインリン酸が含まれている商品が複数あります。ジヒドロコデインの鎮咳作用は市販薬の中で最も強く、効果がある反面依存の原因となる薬です。
また、覚醒剤の原料でもあるメチルエフェドリンや、中枢神経を覚醒させ、他の成分の効果を高めるカフェインが含まれている商品もあり、これらが乱用のきっかけになることが考えられます。
風邪薬
総合感冒薬の多くの商品には、ジヒドロコデインリン酸、メチルエフェドリン、カフェインに追加してアセトアミノフェンなどの解熱剤が追加されています。
総合感冒薬を長期で服用することで起こるアセトアミノフェンによる肝障害、薬物乱用頭痛のリスクなどについてもしっかり把握しておきましょう。
鎮痛剤
「濫用等のおそれのある医薬品」として指定されているブロムバレリル尿素には注意が必要です。
鎮痛剤に含まれており、連用により薬物依存を生じることがあります。
その他精神疾患に関する薬
精神安定効果を期待した一部の商品にはブロムバレリル尿素が配合されており、大量服用による依存性が危惧されています。
ねむけやだるさに効果があるとPRされている医薬品も、乱用でカフェイン中毒の恐れがあります。
厚生労働省「 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会議事録」
大量摂取してしまったら…対処法は?
薬の名称、飲んだ量、時間を確認したうえで、すぐに専門の相談機関に連絡し、医療機関で診察を受けて下さい。
吐き出すか否かも薬によって異なるため、応急処置についても医療機関へ相談しましょう。
一般用医薬品の乱用を防ぐためにできること
子供の誤飲事故は1〜2歳児に多く見られます。
薬は子供の手の届かないところに置いておくこと、さらに、簡単には開けられない容器の中や、鍵のかかる場所にしまうなどの工夫をしてください。
まとめ
市販薬の中には、症状を抑える一方で、大量に服用すると高揚感を感じるなどの覚醒作用があります。
どんな薬も使い方次第では毒になります。薬は決められた量、決められた期間を守って服用することが何より大切です。
薬の依存症に苦しむ方が増えないように、一人ひとりが薬物乱用の危険性を認識することが重要といえます。
一般用医薬品の適正使用の一層の推進に向けた依存性の実態把握と適切な販売のための研究
新型コロナ流行の今だからこそ きちんと知りたい「依存症」
eヘルスネット「薬物依存」
プロフィール
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- 薬剤師:島 礼奈
- 調剤併設ドラッグストア、調剤薬局の薬局長を経て現在はフリーランスの薬剤師として勤務。セルフメディケーションを学ぶためヨーロッパに留学。医療通訳としても活動。