頭痛、肩こり、生理痛、筋肉痛、神経痛等、普段生活していると様々な「痛み」を経験すると思います。ここで確認したいのは、私達を苦しめる「痛み」とはそもそも何なのか、なぜ起こるのかです。「痛み」とは、脳が身体のある部位に異常があると知らせてくれるサインであり、身体の防御反応だと言われます。
しかし、いくら防御反応だと言われても「痛み」が生活の質を下げていることは疑いようがありません。「敵を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」とも言いますから、今回は「痛み」について知識を深め、痛み止めの効果を理解し、どの痛み止めを選ぶべきかを考えていきましょう。
痛みのメカニズムとは
痛みと神経は密接に結びついています。つまり、なんらかの刺激が神経を興奮させ、脳に「ここに障害があるよ」ということを伝え、障害を修復するように働きかけています。
具体的には、刺激を感知するものを侵害受容器といい、これが(1)強い圧力や、(2)外部からの多くの刺激、(3)熱い・冷たい温度による刺激、(4)炎症反応等を感知して神経に情報を伝えているのです。
また、不思議に思うかもしれませんが、皮膚が誰かに引っ張られた時に痛むように、内臓も痛みを感じます。身体の表面だけでなく、身体の深部からも痛みは発生し得るということです。
そもそも痛み止めとは
薬のターゲットとなるのは、上記の刺激によって身体の組織が障害された時に作り出される多くの物質(プロスタグランジン、ブラジキニン、ヒスタミン等)であり、これらの活動を抑えるものが「痛み止め」と言うことが出来るでしょう。
また、痛みの伝達を行う神経の過剰な興奮を抑えたり、脳へ「痛みの情報」が伝わりにくくするものも、アプローチが異なる「痛み止め」と言えます。上記で挙げた物質の働きについて以下に簡単に記載します。今後紹介する医薬品は、下記の働きを抑えるのだなと理解しておいてください。
• プロスタグランジン:プロスタグランジンは侵害受容器の感受性を高め、痛みを感じやすくしたり、ブラジキニンの発痛効果を強めます。
• ブラジキニン:発痛物質として働いたり、肥満細胞からヒスタミンを遊離させます。
• ヒスタミン:ヒスタミンは少量では痒みを感じさせますが、多くなると痛みを引き起こします。
痛みの原因となっているものを解決できることが一番望ましいのですが、上記のような物質の働きを抑えたり、神経の過剰な興奮を抑えることで、頭痛や肩こり、生理痛、筋肉痛、神経痛等の痛みを緩和することができます。
薬局で買える痛み止めの種類と効能の違い
非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)
成分:ロキソニン、イブプロフェン(内服のみ)、ジクロフェナク(外用のみ)、インドメタシン(外用のみ)
効果:プロスタグランジンの産生を抑制することで痛みを軽減します。
ステロイド系抗炎症剤(外用のみ)
成分:ヒドロコルチゾン、フルオシノロンアセトニド、ベタメタゾン吉草酸エステル、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル等
効果:皮膚の炎症で大きく赤く腫れあがり、痛みを感じる時にはステロイドの購入も検討できます。ステロイドはNSAIDSと同じように、プロスタグランジンの産生抑制作用等で炎症を鎮め、痛みを軽減します。
抗ヒスタミン薬
成分:ジフェンヒドラミン
効果:上記で多くのヒスタミンは痛みを感じさせることがあるとお話しました。「痒みが強く、もはや痛い」という皮膚症状にはヒスタミンの効果を抑える抗ヒスタミン薬(外用)が検討できます。
鎮痙薬
成分:ブスコパン
効果:内臓も過剰な動きや過剰な収縮等で様々な部位が引っ張られると痛みを感じることがあります。その場合には過剰な動きを抑える鎮痙薬が解決策になり得ます。生理痛の場合も、NSAIDSと合わせて鎮痙薬を使う場合があり、2つの成分が配合された商品も売られています。
以上が痛み止めとして使用できる可能性のある医薬品です。しかし、例えば下痢による腹痛で鎮痙薬を購入する場合には、無理に下痢を止めるべきではない場合もあります。市販薬のご購入の前には薬剤師や登録販売者に相談することをオススメします。
処方箋で買える痛み止めと市販のものとの違い
ジクロフェナク錠(ボルタレン錠)
ジクロフェナクの外用薬は市販で購入可能ですが、内服は購入できません。ジクロフェナクの内服薬は臨床ではロキソニンやイブプロフェンよりも抗炎症効果が高いという位置付けで考えられています。
ケトプロフェンテープ(モーラステープ)
ケトプロフェンという成分はロキソニン等と同じようにNSAIDSの分類です。ケトプロフェンは皮膚への吸収がロキソプロフェン(ロキソニン)よりも良いとされています。しかし、ケトプロフェンは光線過敏症(貼付部位が光に当たるとかぶれる)が副作用としてあるため、注意が必要です。
アセトアミノフェン/トラマドール(トラムセット配合錠)
アセトアミノフェンはプロスタグランジンの産生を抑えるNSAIDSの一つであり、トラマドールはオピオイド系の鎮痛成分です。トラマドールは痛みの情報が脳に伝わるのを抑える神経(下降性疼痛抑制系)の神経伝達物質であるセロトニンの効果を高めます。つまり、痛みの情報が脳に届きにくくなるので、痛みが軽減されます。ダブルの作用で効果は非常に高いですが、吐き気等の副作用もあります。
プレガバリン(リリカ)
神経の情報伝達に関与している薬です。興奮性の神経伝達物質の過剰放出を防ぐことにより、過剰に働いてしまっている神経の興奮を抑え、神経性の痛みを軽減します。
以上の例を考えると、市販薬を使用しても痛みが収まらない場合やピリピリした神経の痛みが考えられる場合は受診をすべきでしょう。また、発熱や麻痺を伴ったり、今まで感じたことのない強い痛みである場合は必ず受診するようにして下さい。
まとめ
痛みについて知識を深め、痛み止めの効果を理解できたでしょうか。また、市販の痛み止めの種類もお話しましたが、迷った際は遠慮なくご相談ください。受診の目安は特に悩んでしまうポイントかもしれませんが、医師や薬剤師への質問もうまく使いこなして、自身の健康管理をしっかり行っていきましょう。
参照文献
リリカ 添付文書 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1190017F1029_2_02/
トラムセット 添付文書 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1149117F1020_1_21/
渡辺正仁,早﨑華, 由留木裕子 痛みのメカニズムと鎮痛 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/8/1/8_50/_pdf/-char/ja
プロフィール
- 薬剤師 志村駿介
- 大型調剤薬局にて調剤業務を経験。その後、市販薬やサプリメント、健康機器の販売業務にて人々のセルフメディケーションの手助けを行う。現在は薬学博士取得のためヨーロッパで最新の薬物治療や医療制度を学びながら、Malta Medicines Authorityにて医薬品の安全性評価や規制の仕事を行っている。