普段からスポーツや運動をよく実践されている方はこの肉離れという言葉をよく耳にするかも知れませんが、皆さんは「肉離れ」をこれまでに経験したことはありませんか。運動中やスポーツ後に太ももやふくらはぎなどの筋肉が痛くなる、あるいはその痛み症状がしばらく続くと、心配になりますよね。

 

普段の診療場面では、そういった経過や症状を呈する患者さんから「大きな怪我ではないか?」、「冷やした方がいいの?」、「いつになったら痛みがとれるの?」など不安の声もよく聞かれます。今回は、肉離れとは医学的にどういう状態なのか、そして肉離れの対処策と予防方法に関するポイントを中心に解説していきます。

 

目次

肉離れとは医学的にどういう状態?筋肉痛や捻挫とはどう違う?

肉離れというのは一般的な俗称であり、正式には医学的に「筋挫傷」と呼んでおり、身体の筋肉の一部が外力などの影響を受けて断裂した状態を意味します。いわゆる「肉離れ」は、スポーツに関連して急激にダッシュするなど筋肉が急激に収縮する状況において、筋肉自体が伸び縮み運動を行う際に筋繊維が過剰な動きに十分対応できない場合に筋肉が断裂して発症することが知られています。

 

肉離れは、上肢や腹筋など身体のどの筋肉箇所でも引き起こされますが、太ももの裏側やふくらはぎの筋肉で起こることが多いです。「肉離れが、筋肉痛や捻挫とはどのように違うのか」という質問もよく頂戴しますが、簡単に言えば捻挫とは関節の怪我である一方で、肉離れは筋肉、もしくは筋肉と腱がつながっている部位の損傷を指しています。

 

また筋肉痛と肉離れはいずれも筋肉に引き起こされる所見ですが、特に前者の場合には普段実践しないような動作をした数時間後、もしくは遅ければ数日後程度に出現して、筋肉の細かい筋繊維が損傷後に回復する過程で自覚する疼痛症状であると考えられています。

 

 

一方で後者の肉離れでは、走り始めや動き始めなど突如として筋組織に過度の収縮、あるいは強く引き伸ばされるような力が加わった場合に発生する筋繊維の断裂であり、ひどい場合には疼痛部位にくぼみや血腫による変色を認めることもあります。

肉離れはどういう時になりやすい?

通常ではスポーツや運動競技をしている際中に肉離れは起こりやすく、急激な筋肉の収縮が引き起こされることによって急激に発症し、筋肉の断裂音として「ぶちっ」、「ばちっ」などの音が聴こえた後に痛みが生じると伝えられています。

 

運動する前に実践すべきストレッチや準備体操が不足して筋肉が十分にほぐれていない際に急激に伸展運動に対応することなどが原因となり、筋組織の断裂を引き起こして発症すると考えられています。 

簡易的な対処法などは?どれくらいで治る?

仮にスポーツをしている際中や運動後に肉離れを発症した場合は、安静に保つ、筋肉断裂部を冷却する、圧迫固定する、持ち上げ血流を減らすなどの応急的な対処策を行うことで患部の負担を減らして再断裂や出血の増悪を回避することが出来ます。また、基本的には湿布や塗り薬、あるいは内服薬などを使用した保存療法で治癒することが多く、疼痛症状が軽快するまではジャンプやダッシュなどの動作を避けることが重要です。

 

肉離れを発症してから完治するまでは、個人差もありますがおよそ約3〜4週間程度かかると考えられており、医療機関では将来的に再び患者さんが肉離れを罹患しないように上手な筋肉の使い方などを学習指導することなども治療の一環として取り組まれています。

肉離れを防ぐための適切な準備は?

肉離れを予防するためには、事前にしっかりと股関節や下肢全体にかけてウォーミングアップすることで筋肉の柔軟性を高めるのみならず、運動をした後にクールダウンを実践することも重要な観点です。その際には、時間をかけてじわじわ筋肉を伸ばすタイプの静的ストレッチや弾みをつけて筋肉を伸ばすタイプの動的ストレッチをそれぞれ良好なバランスで組み合わせるように心がけましょう。

 

また、肉離れを出来る限り回避するために、事前にストレッチを十分に行ったのちに急激に筋肉を屈曲伸展させる運動をするのではなく、少しずつ運動強度をアップしていくことを忘れないように認識しておきましょう。

まとめ

「肉離れ」は、急激な動作をした際に筋肉が断裂を起こして痛みが生じる病気です。本疾患を発症すると、特徴的な症状として筋肉を伸展した時や荷重をかける際に痛みが増強するためにいつも通りに歩く、走るといった動作が困難になりますので、日常生活において出来る限り肉離れを起こさないように様々な予防策を講じることが重要です。

 

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

 

プロフィール

監修:医師 甲斐沼 孟
国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長。 救急診療のみならず、消化器外科や心臓血管外科、総合診療領域に精通しており、学会発表や論文執筆等の学術活動も積極的に行う。