アナフィラキシーという言葉を聞いたことがある人も少なからずいらっしゃると思います。この病気では発症後すぐに全身に出現する多種多様なアレルギー症状が出現します。

また、運動誘発性アナフィラキシーショックとはいわゆる運動行為が引き金となって、蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下、意識消失など重篤なアナフィラキシー症状が出現して命に係わる病気を指します。

 

それゆえに、運動誘発性アナフィラキシーショックに陥った場合には、迅速に病院で適切な診断および治療を受けることが重要な観点です。今回は、運動誘発性アナフィラキシーショックとはどのような病気なのか、また発生した場合の対処法を中心に解説していきます。

 

目次

運動誘発性アナフィラキシーショックとは?

アレルギーの症状が複数の臓器にわたり全身に急速にあらわれるのがアナフィラキシーの特徴です。アナフィラキシー反応の中でも、特に生体内において運動することが契機となって、細胞からヒスタミンという物質が放出されることで発症、著しく血圧が低下してショック状態に移行するものを「運動誘発性アナフィラキシーショック」と称しています。

 

アナフィラキシーショックは、激しい運動などをきっかけにしてアレルギーを起こす特定の物質や環境下に体が晒されることで発症し、この状態になれば全身に蕁麻疹や発生し咳や喘鳴がでることもあります。そして、喉の内部の粘膜が腫れあがり、物理的に空気の通り道が極端に狭くなることによって呼吸困難、ひいては最悪のケースでは窒息が認められることもあります。 

 

さらに全身の血圧値や意識レベルも低下し、血液循環が悪化し脱力症状となり。最悪の場合、呼吸停止にも至る恐ろしい病気です。

運動誘発性アナフィラキシーショックはどのような場合に起こるのか

運動誘発アナフィラキシーショックは運動行為が契機となって重度のアレルギー反応が出現します。運動の強度自体は必ずしも激しいものに限らずに軽いエクササイズでも引き起こされることが指摘されています。例えば、バスケットやラグビー、アメリカンフットボールなどを始めとする激しい運動のみならず、散歩などの軽い運動でも発症することがあると伝えられています。

 

主に運動行為が契機となって肥満細胞と呼ばれるアレルギー反応において重要な役割を担う細胞からヒスタミンが放出されることによって気管支を収縮させて呼吸困難を引き起こします。また、このヒスタミンが血管の浸透圧や透過性を高めて血管外組織に体液を漏出させることによって体の浮腫性変化や血圧低下症状を発生させます。そして、特に食事後に運動をすることで、食物中に含まれていた特定のアレルゲンの消化や吸収を高めることもアナフィラキシーを起こす要素の一つであると判断されています。 

 

アナフィラキシーが生じる場所は、日常生活を送る家庭や学校、職場などあらゆる環境下で発症することが想定されますので、普段から原因物質を回避できるような対応策を考慮しておくことが重要なキーポイントです。

発生した場合の対処法について

アナフィラキシーショックが仮に生じた際には、迅速な対応が必要です。万が一、運動中に症状が出現した場合にはただちに運動を止めて安静を保ちましょう。予期せずに症状を自覚した時には安静にして、病院受診後に気管支吸入薬や抗ヒスタミン薬、あるいは副腎皮質ステロイド薬を投与して症状改善に努めることが重要です。

 

実際の診療場面では、アナフィラキシーショックが疑われる際には、意識状態、呼吸様式や実測血圧を迅速に評価するのに加えて、血中の酸素濃度もあわせて測定します。また重症のケースでは、アドレナリンの筋肉注射や酸素投与が行われます。 

 

万が一の不測の事態に備えて、あらかじめアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を常備して、症状が現れた際に急速に患者さん本人が自分で大腿部に注射して緊急対応することでアナフィラキシーショックに伴う重症化を回避できると言われています。

アナフィラキシーショックは運動時以外にも起こるのか

アナフィラキシーショックは運動時以外でも主にアレルギーの原因物質(アレルゲンと言う)に触わったり、それらを食べたり、吸い込んだりすることで引き起こされます。例えばハチ毒や薬剤、花粉、食べ物などアレルギーを起こしうる特定の物質に暴露されることでアナフィラキシーショックを発症する可能性があります。

 

一旦アナフィラキシーが起こると、身体の複数領域に症状が自覚されて、顔面が蒼白になり、口唇および舌の粘膜が腫れ上がり、外見からも顔が腫れていることが見て取れます。それ以外にも、胸部などの発赤症状や全身に葦麻疹ができる、気分不良や悪心・嘔吐などの消化器症状が認められるケースも存在します。 

まとめ

運動誘発性アナフィラキシーショックというのは、運動がきっかけで蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などの多彩なアナフィラキシー症状が重篤化して出現する状態と考えられています。万が一にも運動中にアレルギー反応が出現した際にはすぐに運動を止めて安静を保持することが重要な治療策となります。

 

また、かかりつけ医師などによって抗ヒスタミン作用を併せ持つ抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などを事前に処方してもらえる場合には、発作時に備えて常に携帯しておくことが推奨されています。仮に安静にしても症状が悪化していく場合には生命を脅かす危険がありますので、ただちに救急車を呼んで医療機関を受診することが必要となります。

プロフィール

監修:医師 甲斐沼 孟
国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長。 救急診療のみならず、消化器外科や心臓血管外科、総合診療領域に精通しており、学会発表や論文執筆等の学術活動も積極的に行う。