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実は別物?見過ごされがちな「疲労」と「疲労感」の違い

「なんとなく疲れが残っている」「休んでもスッキリしない」——そんな感覚に覚えがある方も多いのではないでしょうか。このとき生じているのは、体の機能が実際に落ちている「疲労」なのか、感覚としての「疲労感」なのか。両者は似ていますが、別のメカニズムで起きるものです。

 

「疲労」は、長時間の身体・脳の活動でATP(エネルギー源)が不足したり、代謝物が蓄積したりすることで機能が低下している状態を指します。一方の「疲労感」は、それを脳がどう認知しているか、つまり主観的な感覚であり、体が元気でも強く感じることがあります。

 

たとえば、九州大学の研究では、筋肉疲労はないのに「疲労感」が強く出る場合があることが報告されており、疲労=疲労感とは限らないことがわかっています。

本当の疲れはこうして取る!「疲労」を軽減する方法

身体機能そのものが落ちている「疲労」を回復するには、細胞レベルでの修復とエネルギー再生が必要です。

● 睡眠による神経修復と代謝再構築
睡眠中、特に深いノンレム睡眠では、脳脊髄液の流れが増加し、脳の老廃物(アミロイドβなど)が除去されることが報告されています(Xie L et al., Science, 2013)。これは、脳の“デトックス”の時間ともいえるものです。

 

● 栄養補給とミトコンドリアの再活性
ATPの産生に関わるミトコンドリア機能を保つために、ビタミンB群、鉄、マグネシウムなどが重要です。特にビタミンB1(豚肉や大豆に多く含まれる)は糖の代謝に必須で、疲労回復に役立ちます。

 

● 軽い運動による血流促進
軽度〜中程度の運動は、筋肉内の血流を促し、酸素や栄養の供給を助けます。また、運動後の回復期にはミトコンドリアの数が増加することも知られています(Holloszy JO, 1967)。

なんとなくダルい…「疲労感」をリセットする3つの方法

「疲労感」は、体内の炎症や自律神経の乱れ、脳内伝達物質のバランス変化によって引き起こされます。以下の方法は、感覚としての「疲労感」に対して科学的に有効とされる対策です。

1. クエン酸を含む食品を摂る
クエン酸はTCAサイクル(クエン酸回路)の中間物質として働き、エネルギー代謝を効率よく進めることで、疲労感の軽減に効果があると報告されています(経済産業省「疲労軽減成分に関する調査研究」, 2010)。レモン、梅干し、酢などを適度に取り入れるのが良いでしょう。

2. 自律神経を整える「規則的な生活」
交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかないと、休んでも“疲れた感じ”が残りやすくなります。毎日同じ時間に寝起きし、食事・運動・入浴をルーティン化することで自律神経の安定につながります。

3. 慢性炎症への対処
近年、疲労感には「低度慢性炎症(low-grade inflammation)」が関与しているという見解があります(Kaneko et al., 2016)。抗炎症作用を持つEPAやDHA(魚油)を含む食事を意識するとともに、睡眠不足やストレスを減らすことが対策となります。

「疲れの正体」を見極めることが、健康回復の第一歩

一口に「疲れた」といっても、その背景には体の物理的な限界なのか、脳が感じ取る感覚の問題なのか、複数の要因が絡み合っています。

本当に休息が必要な「疲労」の段階で無理を重ねると、筋肉や神経系の回復が追いつかず、慢性疲労へと進行するリスクがあります。一方で、活動には支障がないのに「疲労感」ばかりが強くなる場合、生活リズムや食事、脳内の炎症や神経バランスに目を向ける必要があります。

自分の疲れがどこから来ているのかを見極めることは、単なる休息以上に、体調全体のマネジメントにおいて重要な第一歩といえるでしょう。