梅雨に不調になりやすい原因の1つ「気象病」


梅雨の時期の体調不良は「気象病」の1つとされており、この「気象病」は最近になって認められつつある病名で、気象の変化によって様々な症状が出現したり体調が崩れる疾患をまとめてこのように呼んでいます。

主な症状


・古い傷痕の痛み
・めまい
・頭痛
・神経痛
・気分の落ち込み
・抑うつ状態
・気管支喘息
・関節痛
・腰痛
など

気象病としての梅雨時期の体調不良の原因には、以下のようなプロセスが考えられています。(※他にも諸説あり)

1. 気圧の変化


いわゆる「五月晴れ」と言われる高気圧に覆われやすい時期から、梅雨という低気圧が停滞し大気圧が低い時期に移行していき、以下の症状が現れます。

■ 内耳のリンパ液のバランスが崩れる
ヒトの耳の奥の内耳という部分のどこかにあるとされる「圧受容体(気圧感知部分)」が気圧の変化に反応するといわれており、内耳にある内リンパ液や外リンパ液のバランスを緩やかに崩し続ける結果、このことがめまい・頭痛・吐き気などの原因になり得ます。

■ ヒスタミンが分泌される
低気圧の刺激を内耳が感知すると体内で「ヒスタミン」という神経伝達物質が分泌されることが判明しています。 「ヒスタミン」は体において様々な影響を及ぼします。

その大きな作用として交感神経を刺激する、というものがあり、交感神経は筋肉や関節では血管を収縮させて身体活動に備えるので、気圧の低い場所では血行が悪くなり痛みが出やすくなるようです。

2. 湿度や温度の変化


身体の表面や深部の受容器(人体センサー)の興奮により生じる体性感覚のうち、表在性感覚(湿度の感知も含む皮膚の粘膜の触覚、圧覚、痛覚、温覚)は感覚受容器からの情報が末梢神経および中枢内伝導路を介して大脳皮質感覚野に伝えられ知覚されます。

この際、それまでに入力されていた温度や湿度の情報よりもそれらが梅雨の時期特有の変化が大きい場合は、脳は体内環境を一定に維持させる機能(ホメオスタシス)を働かせます。

それにより、自律神経が体内環境を出来るだけ一定にしようとするため、ある時は副交感神経が優位に、またある時は交感神経が優位になります。

3. 日光の刺激の変化


天気が悪く薄暗い日々が続くと朝になったことを脳が認識しにくくなり、そのままリラックスモードである副交感神経の優位状態が続く結果、具体的には体が重く感じられたり、気分が優れないといったことが発生しやすくなります。

簡単に言ってしまえば、高温多湿の地域で生活をしてきている人を除き、梅雨の時期は多くの日本に暮らす人々にとってはやや不快な刺激の連続で、これに対して自律神経が働き調節をすることで体を慣らすまでに時間がかかってしまっているのです。

梅雨の不調で多い症状

副交感神経の働きが優位になり生じる症状



・体がだるい、重い
・疲れがとれない
・眠気がとれない
・胃腸症状(嘔気・下痢傾向・便秘・腹痛)


交感神経(活動的になる方に働く)と副交感神経(体を休める方に働く)と呼ばれる二つの自律神経のうち、後者の副交感神経の働きがやや優位になり過ぎる結果、生じます。

内耳のリンパ液の変化により生じる症状



・めまい
・頭痛
・吐き気


ヒトの耳の奥の内耳という部分のどこかにあるとされる「圧受容体(気圧感知部分)」が気圧の変化に反応し、内耳にある内リンパ液や外リンパ液のアンバランスが生じて症状が出ます。

実際この時期のめまいや頭痛に対しては、乗り物の酔い止め薬が臨床的にも有効なことが多いです。

ヒスタミンが交感神経を刺激し生じる症状



・肩こり
・関節痛
・頭痛
・体の痛み


梅雨の時期は低気圧の内耳への影響もあって、神経伝達物質である「ヒスタミン」が交感神経を刺激し、その結果、筋肉や関節周辺では血管を収縮させ、血行が悪くなり痛みがおきやすくなります。この場合の頭痛としては緊張性頭痛のタイプになります。

頭痛に関してはもう一つ、先述とは逆に副交感神経が様々な要因で優位になってしまう結果、血管を拡張させてしまい片頭痛タイプの頭痛を生じ得るとされています。

セロトニンの合成が鈍り生じる症状



・食欲がない
・気分がしずむ


梅雨の時期はその長雨のため太陽の光を浴びる時間が短くなる結果、セロトニンの合成が鈍り、ひいてはメラトニンの合成量も少なくなってしまいます。

この症状はメンタル的に落ち込んだ状態(軽いうつ症状)が考えられます。

これらの軽いうつ状態は先述の各症状をも引き起こし得るため、それぞれの症状が独立した原因で発症するというよりは、複合的な要因が重なり合って梅雨時期の不調症状が生じているといえるでしょう。

■ セロトニン
ヒトは太陽の光を浴びると必須アミノ酸の1つであるトリプトファンを材料に脳幹の縫線核で「セロトニン」という脳内物質が合成されます。

この脳内物質(セロトニン)は精神の安定・意欲向上に作用します。

■ メラトニン
セロトニンは夜になると睡眠ホルモンとも呼ばれる「メラトニン」に変化します。

メラトニンは寝つきを良くしたり、眠りを深くしたりする作用のほか、抗酸化作用によって細胞の新陳代謝を促進したり、疲労除去作用、病気の予防や老化防止などにも寄与しています。

梅雨の不調が長引いたり悪化したらどうなる?


気管支喘息


梅雨の時期は高温多湿の環境であるため、喘息の原因となるカビやダニが発生しやすい条件が揃っています。

うつ病


もともとうつ病にかかりやすい傾向があったり、大きなストレスを抱えていたところに梅雨の時期による自律神経の乱れや日光曝露頻度の低下が発症の引き金になり得ます。

めまい


頻回であったり遷延性のめまいとなると梅雨の時期が終わった後も再発しやすいケースがあります。

梅雨の不調と室内環境


少なくとも現在の日本は昔とは異なり、空調機器(エアコンや除湿器など)で快適な環境を作り出すことができます。

梅雨という夏に移るまでの気候の変動に体の方が追い付かない状態の人は、これらの空調機器を使い過ぎず、依存し過ぎずを心がけて利用されるのが良いと考えられます。

梅雨に不調になりやすいタイプ


基本的には梅雨時期特有の周囲の環境変化に、自律神経系やセロトニン・メラトニン分泌のアンバランスや分泌量低下に対して、身体が順応しにくい状態であることが原因と考えられています。

こんなタイプは梅雨時にはご用心


□ 体力のない傾向の人
□ 平常体温が低目の人
□ 運動習慣がない人
□ 昼間に出歩く習慣が全くない人
□ 夜型生活を続けている人
□ 偏食/小食傾向が強い人

梅雨の不調を予防するには?


一言でいうと、規則正しい生活を送ることに尽きます。

◎規則正しい生活(日中に活動し夜にちゃんと眠る等)
◎十分な睡眠
◎バランスのとれた食生活
◎適度な運動

最後に建部先生から一言


梅雨は日本に住む皆さんにとっては不快であることが多い時期です。

体は何とかしてその高温多湿・時に肌寒いこの時期を乗り切ろうと様々な調整をかけています。 その調整がうまくいかないのが梅雨の時期の不調の正体です。

いわゆる「うつ病」とその症状の成り立ちがどうやらオーバーラップしているために明確な定義や治療がまだ無いのが実情です。

少なくとも原因は明確になりつつあるので、その不調に悩みそうになったら生活習慣の見直しや、適温&適湿度環境下での夜間睡眠時間の確保をまずは実践してみていただければ良いのではないでしょうか。

プロフィール

監修:医師 建部 雄氏
京都市生まれ。社会人を経て医師を志す。2001年、昭和大学医学部医学科卒業。 卒後、東京都内の大規模総合病院にて救急科の経験を積む。 その後、阪神淡路大震災において内科医が避難所等で切実に必要とされていた事実を知り、より多くより幅広く患者さんに対応できる医師を目指して総合内科へ転向を決意。 急性期病院・クリニックの勤務を経て、最も身近な医師としての研鑽を積んでいる。 現在は、横浜市内の総合病院に勤務中。週末を中心に休日夜間の非常勤先病院 救急外来勤務をほぼ趣味としており、失敗も成功も含めて経験は豊富。