- 相談者56歳/男性
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この2年間、甲状腺機能低下症を患っている56歳男性です。当初から橋本病ではないと言われ、現在チラージン50を服用していて症状は軽い便秘程度に収まっていますが、血液検査を行うとTSH値が異常に低い値を示しています。
私は22年間も双極性障害の薬「リーマス」「テグレトール」を飲み続けていて(2006年に同病気は寛解)、2年前に発症した甲状腺機能低下症はこれら薬物の影響ではないかと思うようになりました。そこで主治医を変更し、より専門的な甲状腺専門医にかかることになり、そこではやはり中枢性甲状腺機能低下症の可能性が高いと言われました。①そこで処方された薬はチラージン50に加え、コートリル10という下垂体の機能を回復させるものですが、コートリル10の効き目が現れてくるのはどの程度(2~3ヶ月?)かかるものでしょうか。②コートリルによりTSHの値は上がってくるものでしょうか。③中枢性甲状腺機能低下症を確定させるための検査はどのようなものでしょうか。入院が必要でしょうか。
- 中田先生からの回答
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ご質問ありがとうございます。
①コートリルは、中枢性甲状腺機能低下症を回復させるために投与されたのではないと考えます。
体内のホルモンは、視床下部→下垂体(更に前葉と後葉に分かれます)→末梢の様々な組織(甲状腺や副腎など)から実際に作用のあるホルモンの分泌、という経路をとります。
中枢性機能低下症というのは、視床下部か下垂体に障害が起こり、上位ホルモンが出なくなっている状態です。
TSHは下垂体前葉から分泌されるのですが、下垂体前葉から分泌されるホルモンは、実は6種類もあるのです。多くの場合、この6種類のホルモンのうちに1つだけが傷害されるのではなく、6種類全て、もしくは何種類かまとまって障害されます。そして、下垂体前葉の機能低下が起こった場合に、生命の維持に直結するために補充が最優先されるホルモンが、甲状腺ホルモン(チラージン)と副腎皮質モルモン(コートリル)になります。その他のホルモンは低下していても補充を急ぐものではありません。
恐らく、採血の結果、質問者様の副腎皮質ホルモンが低下しており、その補充のためにコートリルが開始になったものと思われます。
下垂体機能低下症の原因が、下垂体の炎症であった場合に、ステロイド(副腎皮質ホルモン)による治療を行う事もありますが、その場合、コートリルではなくプレドニンという抗炎症作用に特化したステロイドが使用されることが殆どですし、コートリル10では炎症を抑える容量としては少なすぎますし、下垂体の炎症を確かめるためには様々な検査(少なくともMRIは必須)を行った結果の事になります。
なお、体内に足りていない副腎皮質ホルモンの補充という意味でのコートリルの効果は、飲めばすぐに表れます。
② 上記①で説明した通り、コートリルは中枢性甲状腺機能低下症の治療のための投薬ではありません。
③中枢性甲状腺機能低下症を確定させるための検査は入院して行うことになります。
①でお話したように、下垂体ホルモンの低下なのか、視床下部ホルモンの低下なのかを確かめたり、下垂体ホルモンのなかで他に低下しているものはないのか、などの検査を行います。これは、薬剤を投与して、何十分かおきに何回か採血して、身体の中のホルモンがどのように変化するのかをみる、負荷試験というものを何種類か行います。また、頭部MRIを施行して、下垂体や視床下部に腫瘍や炎症が生じていないかなどを確認します。
- 中田先生からの回答
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補足です。リーマス(炭酸リチウム)、テグレトール(カルバマゼピン)ともに、甲状腺機能低下症を副作用として生じさせる可能性のあるお薬です。
しかし、いずれも中枢性ではなく、末梢性甲状腺機能低下症を生じさせます。
リーマスは、甲状腺から甲状腺ホルモンが分泌させるのを阻害し、テグレトールは、甲状腺ホルモンの分解・代謝を促進します。
ですので、質問者様はTSHが低下していることから中枢性甲状腺機能低下症が疑われますため、お薬の副作用ではなく、また別の要因により中枢性甲状腺機能低下症を発症されているものと考えられます。(もちろん、両方を併発している可能性もあります。)
- 相談者56歳/男性
- 詳細にわたりご回答いただき有難うございました。