認知症とはいえませんが、正常ともいえない境界の状態を「軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)」と呼ばれるようになってきました。アルツハイマー病の予防やその原因治療薬の開発研究の進歩により、この軽度認知障害という状態が最近注目されています。

今回は、この軽度認知障害の症状や検査内容について、医師に伺いました。

こんな症状に要注意!

65歳以上の20人に1人くらいが軽度認知障害の状態に該当するとされています。そのうちの約半数が、4年以内に認知症に移行するといわれています。

軽度認知障害で見られる症状は、
・自らがもの忘れを訴えるようになる
・年齢に相応でない記憶力の低下がみられる

といったものです。

しかしトイレや食事、入浴など家での日常的な動作は問題なくでき、買い物での支払い、電車やバスを使って一人で外出して帰ってくるなどの普段の生活は普通にできます。全体的な物覚えの状態や機能は正常なので、認知症の診断基準に該当することはないのです。

気になる検査内容は?

医療機関では、どのようにこの軽度認知障害を見つけるのかについてお話します。

まずは本人と家族から話を聞きます。
本人がもの忘れの進行に気付いているかどうか、家のことや社会的な生活が正常に行えているかどうかなどです。そして認知症のスクリーニング検査に用いられる長谷川式簡易知能評価スケール改訂版ウェクスラー記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised)といった検査を行って認知機能の評価をしていきます。

検査の内容は以下のようなものです。
・年齢や日付、現在いる建物の名前を答える。
・言葉の復唱。
・計算をする。
・見せた図形を隠してから同じものを書く

また認知症のような症状をきたす薬剤の服用がないかどうか、他の疾患(うつ病や甲状腺機能低下症など)がないかの確認もします。

MRIや髄液の検査も

機械が高額なため一部の医療機関でしか検査ができませんが、MRIやSPECTといった画像検査で判断することもあります。
脳の記憶に関係する海馬傍回前方にある嗅内野皮質の萎縮の有無や、脳のある部分に血流低下があるかどうかといったことが診断の参考になります。

その他、腰のあたりの背中側より針を刺して髄液を採取し、その中に「Aβ42」および「リン酸化タウ」というものを測定して診断の参考にすることがあります。測定検査自体一般に広く行われていないので、ごく一部の医療機関や研究機関でのみの検査になります。

医師からのアドバイス

軽度認知障害はまだ一般に広く知られていないことや、本人が認知機能の低下を認めたがらないこともあり、医師としても診断と告知には非常に慎重になります。

今後は、よりかんたんに軽度認知障害を客観的に判断できるものの開発に期待が寄せられます。

(監修:Doctors Me 医師)