最近、階段を上っただけで息切れを起こしてしまったりしていませんか?

年を重ねるとともに、肺も老化が進むそうなのですが、そのメカニズムや要因は一体何なのでしょうか。

今回は医師の建部先生に肺の老化の原因、懸念される疾患、肺を老化させるNG行動、肺の老化セルフチェックなどを解説していただきました。

肺が老化する原因


そもそも、肺に限らず臓器がどのくらい良好に本来の機能を果たすべく働くかどうかは、その臓器を構成する細胞がいかに機能するかどうかに直結しています。

少なくとも老化した細胞の機能は良好とはいえません。また、臓器によっては老化細胞が死滅しても置き換わらないため、一定以上の機能を持つ細胞数は体の老化とともに著しく減少します。

また体内機能の大半は年齢とともに低下するといわれおり、一般的には30歳前でピークに達し、その後はゆっくり連続的に衰えていくと考えられております。

細胞の老化に関しては現在もはっきりした原因が分かっておりませんが、肺という臓器の老化に強い関連が考えられるのは以下の諸説が唱えられています。

1:遺伝子プログラム説


人間の体を構成する細胞に寿命があるという考え方です。

細胞内において、細胞分裂期に観察されるDNAが折りたたまれて棒状の構造体となっている染色体において、遺伝情報を担っている染色体の末端にテロメアと呼ばれる部位がついています。

テロメアは、細胞分裂の際に遺伝情報を正しくコピーして受け渡す働きをしていますが、分裂するたびに火のついたロウソクが短くなるが如く徐々に短くなっていき、ある程度まで短くなると細胞分裂をやめて細胞は自己破壊してしまいます。

テロメアの長さ自体は個人差があるものの、一般的には若年者のほうが長いということになり、細胞分裂不可能となれば、肺をはじめとした臓器を構成する細胞が減少しその結果、臓器機能の低下が生じるため老化のサインとなります。

2:DNA損傷説


遺伝子を構成しているDNAが紫外線や放射線、活性酸素といった外部刺激で損傷することにより遺伝情報伝達ミスが起き、その蓄積が細胞の老化につながるというものです。

3:免疫機能説


身体を守る免疫機能が低下することで、病気を引き起こし老化につながるというものです。

免疫機能の低下として知られている原因として、環境やストレスなどが挙げられますが、加齢も原因の一つとされています。

実際、免疫担当細胞の中で重要な働きをするナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性も、加齢に伴い減少していくことが知られています。

4:活性酸素説


酸素自体は、人がブドウ糖や脂肪を分解してエネルギー作り出す際に体内に取り込まれ、使わなかった酸素の一部が余剰の活性酸素となります。

そして最終的に人体を構成する細胞にダメージを与え、その細胞機能の低下やDNAの損傷を引き起こし細胞の老化に至るものです。

現代人の私たちの生活において、食事やストレス、喫煙、大気汚染、オゾン層破壊による紫外線暴露量の増加がさらに多くの活性酸素を体内で発生させているので、体内で必要以上の活性酸素による刺激を受けることになり、細胞の老化を引き起こしまうと考えられております。

5:糖化反応説


近年の研究において、タンパク質と糖が加熱や酵素反応で結合してすることを糖化現象と呼び、糖化の最終産物を終末糖化産物(AGEs;Advanced Glycation End-products)が老化を進める原因物質であることが分かってきました。

終末糖化産物(AGEs)には2つの系統があります。

1:動物性脂肪食品を焼いたり揚げたような唐揚げ、フライドポテト、ホットケーキなどの身近な飲食物由来のもの

2:血液中の余剰なブドウ糖が体内のタンパク質と結びつくことで形成されるもの

いずれの場合も、終末糖化産物(AGEs)が肌の老化や脳の老化に伴う認知症をはじめ、心筋梗塞や脳梗塞、骨粗鬆症、白内障の一因となるばかりか、メタボリック症候群等にも関係しており深刻な疾病をも引き起こすリスクが高いとされ、そのコントロールが重要と考えられています。

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肺が老化すると困難になる行動


■ 安静時や労作時の呼吸困難、それに伴う歩行移動困難

■ 進行性の息切れ

■ 会話困難

■ 喀痰喀出困難

■ 風邪症状等の気道感染症の治癒遷延

おおむねタバコの吸いすぎによって起こる慢性閉塞性肺疾患(COPD:慢性気管支炎/肺気腫)の症状や、気管支喘息の症状があてはまります。

肺の老化は病院で治療可能?


肺の老化を病院で治療することは、現時点では不可能です。

病院でできることは、肺の老化によって発生した呼吸困難、感染症、呼吸機能低下とそれに伴う全身への影響を治療またはコントロールすることになります。

肺が老化すると懸念される疾患


全身の老化が進むと誰しも呼吸筋の筋肉量が徐々に低下し背筋力も低下していくために、背筋をまっすぐに保つのが難しくなり背中が丸くなっていきます。

呼吸筋の筋肉量低下とそれに伴う姿勢変化に追い打ちをかけるように、肺を取り囲む胸郭の形状も変化し、肺という臓器そのものの変化も生じてきます。

具体的には、形態上は気管支腺の萎縮や末梢気腔の拡張を呈し、機能的には肺活量や一秒量などが低下してきます。
(簡単に言うと、全身の老化によって背中が丸くなり前傾-胸部圧迫姿勢が慢性化すると深い呼吸が出来ずに、肺機能が低下し、肺の老化に繋がります)

さらには肺の防御機構にも変化が伴い、喫煙刺激に対する応答も加齢によって変化することに加え、食生活や環境といった要素が重なり以下の疾患が発生し得ると考えられます。

慢性閉塞性肺疾患


喫煙や大気汚染による慢性的な炎症が肺の構成細胞を変性させてしまいます。

肺がん


原因の70%は喫煙ですが、他に受動喫煙、環境、食生活、放射線、薬剤などが癌細胞の増殖を成立させてしまいます。

肺炎


老化により、自己の気道浄化能力の低下をはじめ病原性微生物に対する免疫応答低下によって生じやすくなります。

栄養障害(体重減少)


肺の老化に伴った呼吸困難により、食事量が低下するためです。


喫煙や運動不足といった生活習慣や肥満により肺の老化はより進行し、その過程で、上記の疾患を生じ得るとともにいわゆる生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)も発生する可能性もあります。

また、「糖尿病と肺の老化」によって引き起こされる疾患として、肺線維症、肺がんや心不全が推測されています。

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肺を老化させるNG習慣


喫煙


最も活性酸素を発生させる原因であり、肺の慢性的な炎症を引き起こし空気の流通部分を構成する気道上皮細胞にダメージを与えてしまいます。

当然ながら細菌やウイルスの感染が成立しやすくなったり、アレルギー反応も起こりやすくなり、その影響で気道上皮細胞の炎症とダメージを与えるという悪循環に陥ります。

この過程において肺の老化が促進されてしまいます。

汚染された大気が存在する環境下の居住


排気ガス、粉じん、ハウスダストや花粉、カビなどにより気道上皮細胞でのアレルギー反応が慢性的な炎症に繋がると、活性酸素が発生し反復する気道上皮細胞へのダメージが細胞の老化を進め、肺全体の老化を進める結果となり得ます。

気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患の治療を自己中断


喘息は、主にアレルギー性の炎症により気管支が狭くなる病気で、炎症を鎮めないでおくと喘息発作が生じやすい状態が慢性化し、最終的に肺が老化します。

同様に慢性閉塞性肺疾患はタバコの煙を主とする有害物質を、長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患なので、肺の老化を進めてしまいます。

運動不足


慢性的に肺の運動対応能力が低下することで、老化による肺機能低下を早めます。

肺の老化を予防する方法


禁煙


喫煙により有害物質・活性酸素が肺の慢性的な炎症と老化を進めるため、これを食い止める必要があります。

適度な運動


まずは一番手軽にできる腹式呼吸トレーニングや日々のお散歩から始めていただき、これを習慣化とすることが目標です。

おすすめは週に1~2回程度のスイミングで、一定リズムで反復呼吸をすることで肺機能が高まり肺の老化を遅くします。

バランスのとれた食事


老化の原因を考えると日々の食事において、呼吸器の粘膜の免疫力を高めること、抗菌作用を高めること、細胞がその本来の機能を発揮するために必要な栄養素を摂ることの3点が重要です。

抗酸化作用を有するとして知られるビタミンA、C、Eを含む食材、カテキンやアントシアン、イソフラボンといったポリフェノールを多く含む食材、n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸が多い食材を多く摂るようにしましょう。

気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患の治療を続ける


疾患による慢性的な炎症とそれに基づく呼吸機能低下、呼吸困難を軽減させ、肺の老化を急速に進めないよう働きかけます。

空気環境の改善


自動車の排ガスやスギ花粉等があまりにも多く、呼吸器症状が慢性的に出ている場合では、外出時のマスク装着やこまめな居宅内清掃はもとより、空気清浄機の設置や転居等も検討する必要があるでしょう。

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肺の老化セルフチェック


肺機能低下に関して簡単なチェックリストを作成してみました。

このうち、2つ以上が当てはまるようでしたら、老化を含む何らかの要因により肺機能が低下している可能性が高いと考えられます。


□ タバコを吸っている、または以前、吸っていた

□ 呼吸するのが苦しく、常にゼイゼイ、ヒューヒューしてしまっている

□ 痰がらみの咳がなかなかよくならない

□ 風邪をひくと3週間以上、治らないことが多い

□ 喘息や慢性閉塞性肺疾患といった慢性的な持病がある

□ 階段の上り下りや少しの運動で息切れがする

□ 同年代の人と同ペースで歩くのが辛かったり、追いつけない

□ 天候により咳がひどくなってしまうことがかなり多い

最後に建部先生から一言


肺はもとより、人体の老化のメカニズムはいくつかの要因が絡まりあっており、少なくとも長い年月にわたる喫煙や運動不足といった生活習慣の蓄積が、主な肺の老化促進要因と考えられます。

肺の老化を防ぐのであれば、喫煙される方は禁煙と適度な運動は必須ですし、肺の呼吸機能の維持・向上のためにも適度な運動、バランスのとれた食事も重要です。

肺の老化とともに呼吸機能は確実に低下してゆく運命なのですが、これをいかに最小限にとどめるかは皆さんそれぞれの心がけ、努力にかかっています。

(監修:医師 建部雄氏)

プロフィール

監修:医師 建部 雄氏
京都市生まれ。社会人を経て医師を志す。2001年、昭和大学医学部医学科卒業。 卒後、東京都内の大規模総合病院にて救急科の経験を積む。 その後、阪神淡路大震災において内科医が避難所等で切実に必要とされていた事実を知り、より多くより幅広く患者さんに対応できる医師を目指して総合内科へ転向を決意。 急性期病院・クリニックの勤務を経て、最も身近な医師としての研鑽を積んでいる。 現在は、横浜市内の総合病院に勤務中。週末を中心に休日夜間の非常勤先病院 救急外来勤務をほぼ趣味としており、失敗も成功も含めて経験は豊富。