セクハラ、パワハラ、モラハラ…など、ハラスメントと呼ばれる問題には多くの種類がありますが、最近はいろいろな業界で話題になっていますね。
職場などで起こる嫌がらせには、さらに「エアハラ」というものもあるようです。
エアコンの温度設定をめぐって体調だけではなく、人間関係が悪化することもあるエアハラ問題について、産業医の井上先生に解説していただきました。
エアハラとは?
エアハラはハラスメントの一種
セクハラやパワハラをはじめとするハラスメントには、さまざまな種類があります。
その中でも最近注目されているのが「エアー・ハラスメント(エアハラ)」という、エアコンの温度設定によって体調不良をひき起こすハラスメントです。
寒すぎるor暑すぎるエアコン設定が原因
エアハラには、2つの側面があります。エアコンの設定温度を低くされてしまうことで風邪をひくなど体調を崩す場合と、逆に設定温度が高すぎることで熱中症のリスクが上がってしまう場合です。
室温が均一に一定であることは少なく、自分にとっては最適であっても、冷風が直撃する場所で過ごす人にとっては不快に感じることもあります。
推奨されるのは「エアコン設定温度=28℃」ではない
2005年から政府が提唱しているクールビズは、冷房時の「室温28℃」を目安に夏を快適に過ごすことを目標としています。
しかし、今でも多くの人が「室温」ではなく「空調設定温度」を28℃に設定する必要があると誤解しているようです。このことが、エアハラ問題の原因の一つと考えられています。
エアハラにはどんなリスクがある?
エアハラには、体調を崩すリスクがあります。内臓が冷えることでさまざまな症状が出たり、逆に熱中症のような症状が出ることもあります。
単純に温度が合わないということだけでなく、精神的なダメージを受ける場合もあります。
「私服勤務なのだから、寒いと文句言うなら上着を羽織ればいいじゃないか」とか、「年配の人もいるのだから、寒いと言っている人の意見を聞く余裕を持つべきだ」など、心ない言葉を毎日のように言われることもあるでしょう。
その結果、人間関係に溝ができて職場環境に適応できず、二次的にうつ状態になる場合もあります。
エアハラで注意すべき症状
内臓の冷えからくる症状として、腸の動きが鈍くなり便秘がちになる可能性があります。また、これ以上体の深部体温を下げまいとして血管が収縮するため、肩こり、頭痛などが起こる場合もあります。
老廃物や水分が体内に滞りやすくなるため、むくみの原因にもなるでしょう。
また、暑すぎる環境では、熱中症の初期のように全身の倦怠感で頭が常にボーっとすることがあります。職場の人間関係に溝ができやすいことから、職場に行くのが億劫になり徐々にうつ状態が現れることがあります。
朝、出社時間に間に合うように起きることができない、夜に寝られない、といった状況や、勝手に涙が出てくるなどの症状があればうつ状態の可能性は高く、注意が必要です。
対策とは?
暑さ対策
服装にある程度自由が利くのであれば、通気性・吸湿性の高い麻などの素材を活用してください。首などに冷えたペットボトルをあてて冷やす方法もあります。
風があるだけで涼しさを感じることも多く、オフィスであれば卓上扇風機などを活用してみてください。また、こまめな水分補給を行い脱水を防ぐようにしてください。
寒さ対策
体の中心には太い血管が通っているため、まずは首を温めましょう。マフラーなどが有効ですが、夏場はスカーフやストールを上手に活用しましょう。
冷たい空気は足元に溜まることから、足が冷えやすくなります。冷えやすい人は夏場であっても厚手の靴下やレッグウォーマーなどを活用するとよいでしょう。
職場で寒さが強いときは、全身の血流が悪くなっていることが考えられます。そのため、入浴時はシャワーではなくできるだけお風呂につかるようにして血行を促進するように心がけましょう。
エアハラで体調を崩したと思われる場合、何科に相談すればいい?
まずは予防が大切ですが、もしも体調を崩したときは内科を受診することが一般的です。
ただし、うつ状態などの精神的な症状が前面に出ている場合は、心療内科や精神科の受診が必要になることもあります。
最後に井上先生から一言
職場などでの暑い・寒いは昔からあるトラブルの一種ですが、何も対策を講じないと身体面や精神面に影響が出ることがあります。
個人レベルの対策だけでなく、職場の環境測定結果も有効に利用してください。室内の温度管理は、広いオフィスを1つの温度計で測定してもあまり意味はありません。
会社としては、労働安全衛生法を守り、労働者にとって働きやすい環境を提供する必要があります。従業員の声に耳を傾けて、できれば部屋の4隅と中央の5点で室温測定して、ムラを把握することも重要です。
プロフィール
- 監修:医師 井上 智介
- 島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。