少し前に、バセドウ病という病気を持つ著者による漫画「あたい、美人病になりました!」が発売され、話題になっているようです。

 

特徴的な名前で記憶に残りやすいですが、「美人病」とはいったいどんな病気のことなのでしょうか?医師に解説していただきました。

 

 

美人病ってどんな病気?

オフィスで悩む女性

 

甲状腺の病気

美人病とは俗称であり、正式名称はバセドウ病といいます。バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に作られる疾患であり、その結果、甲状腺の機能が亢進して(通常より高ぶり進んで)しまいます。

 

免疫システムの異常

甲状腺ホルモンが勝手に過剰に作られることは、体の免疫システムの異常が関係しています。

 

体の免疫システムとは、菌やウイルスなどの外敵に対して抗体を作り、体を守るシステムのことです。しかし、「自己免疫疾患」といって、外敵ではなく自分の臓器を敵と勘違いし抗体を作ってしまう疾患が存在します。

 

バセドウ病もそうした自己免疫疾患の一種であり、作られた抗体が甲状腺を攻撃することで甲状腺ホルモンが過剰に作られてしまうのです。

 

女性に多い

バセドウ病は男性にも起こりますが、圧倒的に女性に多く、発症する原因はまだはっきりと分かっていません。

 

 

どんな症状?

動悸がする女性

 

甲状腺ホルモンは車でいうエンジンにあたり、体の代謝を活発にする働きがあります。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、エンジンの空ぶかし状態になり、全身に以下のような症状が起こってきます。
 

・頻脈(動悸

・体重の減少

・手の指の震え

・異常な量の発汗

・排便回数の増加、下痢

・甲状腺の腫れ(首が腫れて見える)

 

他にも眼球突出といって、目が飛び出るような症状がみられる場合があります。そのため、クリっと大きな目に見えることがあります。

 

さらに、バセドウ病は体重の減少などの症状もあり、スタイルがよく見えることがあります。これらが美人病と呼ばれる由縁です。

 

 

どんな治療をするの?

薬を服用する女性

 

ホルモンの治療としては、以下の方法があります。

 

・抗甲状腺薬の投与

・アイソトープ(放射性ヨウ素)治療

・手術

 

アイソトープ(放射性ヨウ素)治療や手術を検討している場合は、甲状腺専門医のいる医療機関を受診してください。

 

また、日常生活では安静が重要です。睡眠時間を十分にとり、激しい運動や仕事、ストレスを避けるようにしてください。

 

 

他の病気との関係は? 

休息をとる女性

 

甲状腺機能が充進しているときは精神的に不安定になりやすく過活動になり、生活リズムが乱れやすいです。

 

そうなるとさらに精神的に不安定になり、バセドウ病のさまざまな症状が増悪する傾向にあります。

 

意識して規則的な生活をし、十分な休息と睡眠をとることが望ましいでしょう。

 

 

日常生活での注意は? 

禁煙する女性

 

禁煙

喫煙は、バセドウ病の発症リスクを高めます。未治療・治療中、あるいは寛解中にかかわらず、バセドウ病の患者さんは禁煙するようにしてください。

 

また、喫煙には抗甲状腺状腺薬の治療効果の減弱、再発率の上昇、眼球突出の発症リスクが高まることが知られています。

 

食事 

食事の面では、海藻類(特に昆布)の食べすぎに気をつけましょう。海藻類に含まれるヨード(ヨウ素)の過剰摂取は、抗甲状腺薬による甲状腺機能の正常化を遅らせます。さらに、再発の原因の一つにもなります。

 

抗甲状腺薬による治療の際には、海藻類の摂取を制限するか、避けたほうがよいでしょう。

 

規則的な生活で、無理はしない

治療中のバセドウ病患者は、睡眠時間を十分にとり、規則的なゆっくりとした生活をすることが望まれます。

 

特に甲状腺の機能充進が十分コントロールされていない時期は、激しい運動や長時間の運動は避けましょう。

 

 

妊娠しても大丈夫? 

妊娠に悩む女性 

バセドウ病は若い女性に多い疾患だからこそ、抗甲状腺薬を服用していると、妊娠にどのような影響が出てしまうか心配になる人も多いと思います。

 

結論から言うと、妊娠には細心の注意を払う必要があります。

 

バセドウ病の薬物治療について、一般的な先天奇形の頻度や子どもの知的発達は、抗甲状腺薬を内服した妊婦とそうでない妊婦とで、差はないことがわかっています。

 

しかし、特定の抗甲状腺薬を内服した患者さんの子どもに、後鼻孔閉鎖症、食道閉鎖症、気管食道煙、頭皮欠損などの特殊な奇形がみられたという報告があります。

 

そのため、薬物治療にあたっては細心の注意を払い、奇形の観点から妊娠4~7週は特定の抗甲状腺薬は避けたほうが無難といわれています。*

 

妊娠を考えている人は、主治医とよく相談しながら治療を継続しましょう。

 

 

最後に井上先生から一言 

窓によりかかる女性 

甲状腺ホルモンは全身に症状が出るので、意外と発見が遅れがちになります。

 

特にダイエットしていないのに勝手に体重が落ちていることがあったり、少し運動しただけでも過剰に汗をかいて息切れするなど日常生活の中で変化があるようであれば、バセドウ病などの甲状腺疾患の可能性があります。

 

診断の入り口は、採血です。気になる症状がある人は、まずお近くの内科など医療機関を受診してください。

 

参考資料

 * 日本甲状腺学会(2011)『バセドウ病薬物治療ガイドライン2011』260,南江堂.

プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。