自分の病気については調べないようにしています。余計な知識が入ると不安になっちゃうので―。
テンポ良く話すジョンソンともゆきさんは27歳。話を聞いてみると、その言動は強い思いと考え抜かれた結果の先にあるものだと分かりました。
シュールな笑いを誘うゲーム実況や1コマ漫画が人気で、SNSでは10万人以上のフォロワーを持つマルチクリエイター。そんなともゆきさんは昨年、ウェブサイト上で自分の病気を公表しました。
慢性骨髄性白血病と言います。
「笑ってもらう」を突き詰めたら1コマ漫画になった
ゲーム実況や漫画を描き始めた経緯を教えてください
ゲームの実況動画を始めたのは中学生のときです。動画サイトが伸びている時期で、楽しそうだからチャレンジしてみようと思いました。
漫画の執筆も、大学に入って「やっていないことに挑戦しよう」と思い立ったのがきっかけです。
紙とペンに手を伸ばせば下手でもすぐに描けると思って始めたのですが、これがかなり好評でした。
なぜ「1コマ」漫画なのでしょうか。ネタを考えるのが難しそう
4コマで漫画を描くこともありますが、今は1コマが多いです。SNS、特にツイッターに合わせたかたちとなると、1コマが一番いい。
画像をクリックせずにタイムライン上で見てもらえる。コマ数が減ると内容の無駄もなくなって、その分投稿数も増やすことができる。
多くの人に見て、笑ってもらえる目標を突き詰めた結果の1コマです。
何気ない日常のシュールさが凝縮されていますよね
ずっとお笑いを見て育ってきました。
みんなが知っているものを題材にして、その中で自分なりのちょっとズレた路線をぶつけて昇華する。
僕のボケの作り方として、そういう型があります。
1コマに凝縮したシュールな大喜利漫画(上)。4コマ大喜利にはパワフルな面白さが宿る(下)。
(画像提供:ジョンソンともゆきさん)
会社の健康診断で発覚した白血球の数「10万」
病気のことを伺います。発覚したきっかけは何だったのでしょうか
昨年、勤務先の健康診断を受けて2日後に「再検査を受けてくれ」と上司から連絡がありました。
発熱が続いていたのでそのせいで異常値が出たのかな、くらいに考えていました。
再検査の結果、異常だったのは白血球の数です。
通常であれば3000~8000程度らしいのですが、僕の白血球の数は10万。
「慢性骨髄性白血病の疑いがあります」と言われました。
白血病。そのとき、医師はともゆきさんにどんな説明をしたのでしょうか
僕の生活が原因ではなく、偶然かかってしまった病気であること。
若いうちは寛解(かんかい・症状がおさまる)しやすいこと。
ドラマのように髪の毛が抜けたり隔離されたりするタイプのものではなく、薬を飲んで治療すれば症状の再発がない状態にできる病気だということ。
丁寧な説明でケアをしてくれました。
いい先生だったんですね
白血病という名前だけ聞いたら、ちょっと受け止めきれなかったと思います。
ただ、「強い薬だから体に影響が出るかもしれない」「その薬は高額だよ」という2点は念を押されました。
一生病気と付き合うのか、一生治療費を払うのか
「強い薬」の副作用はどんなものがありましたか
高熱、頭痛、吐き気…。動けなかったですね。
このほかに全身が真っ赤になるほどのじんましんも出たのですが、服用している薬にはそういう副作用は確認されていないらしくて…自分の体に何が起こっているのか分かりませんでした。
そうなると生活や仕事にも支障が出たのでは…
仕事は欠勤が多くなって、働き続けることが難しくなりました。
薬は効いていて、まだ若いし体力もある。医師も親身になってくれていたので、当初は「なんとかなる」と思っていました。
でも、ちょっとずつ体調を崩して仕事ができなくなって、今までの生活ができなくなる中でどんどん不安になって。
はっきりと「死」を意識するようになりました。
実は、医師から「この病気は治った(寛解した)としても、薬は飲み続けなければいけない可能性がある」という話も聞いていました。
慢性骨髄性白血病の薬代は、だいたい月20万円程度です。
医療費が高額な場合、収入に応じた上限額以上の支払いが免除される制度によって、今は月5万円ほどに抑えられていますが、「一生治療費を支払うことはできるのか」「一生これと付き合っていかなきゃいけないのか」。
これが一番プレッシャーだったかもしれません。
ジョンソンともゆきが持ち込んだ「病気」という現実
昨年、ともゆきさんがネット上で白血病のことを公表したときはかなりの反響がありましたね。白血病について公表しようと思った理由を教えてください
その時の記事はこちら:ジョンソンともゆき「白血病に対する治療費のご援助」(2019/9/18)
このまま行っても気持ちがダメな方向に行くだろうなと思って行動を起こしたかった。「ちゃんと伝えてみよう」と思いました。
診断されてから公表するまで4ヶ月ほどタイムラグがありました。その間、どんなことを考えていたのでしょう
公表するかどうか悩んでいました。書いた文章は1週間くらい下書きのまま保存していました。
これまでジョンソンともゆきとして投稿してきたものはギャグ、笑えるものだけです。
そこにリアルを持ち出すことに悩んだし、受け入れられないんじゃないかという不安もありました。
実際に公表した後の反応はどうでしたか
治療費の援助を求めるやり方に対してバッシングも覚悟していましたが、実際は「支援させてください」という声をたくさんもらいました。
同じ病気で苦しんでいる方からの応援メッセージもあり、いろんな人から”生きること”を肯定されているような感じでしたね。
自分の力で治し、また働くために発信力を武器にする
病気が判明する前後で、生活や仕事において変わったことがあれば教えてください
白血病になってから、SNS上での活動に力を入れました。
発信力をつけて収入が得られたら、自分の力で寛解に近づけるんじゃないかって。
元勤務先の上司が声をかけてくれたんです。「君の人となりは知っているから、働けるようになったら戻っておいで。面接なしで採用する」。
いい主治医に加え、いい上司にも恵まれていたんですね
本当にそうなんです。会社への愛着もあります。だから、治療を終えて体調が回復したら、また戻って働きたい。
なおかつ創作活動も並行してできる環境、というのが今一番の理想ですね。
そのためには治療費を稼がないといけない。
現実を真正面から受け止めて行動できるのが、ともゆきさんのすごいところだと思います。病気を公表してからともゆきさんのことを知った方も多いのではないでしょうか
そうだと思います。今年に入ってから増えたフォロワーは5万人以上います。
SNSで僕のことを知ってくれた企業から仕事の依頼もいただくことができて、忙しくなりそうです。
絶望しながら、支えられながら新しい日常を過ごす
現在の体調はどうですか
だいぶ良いです!薬の量は副作用を考慮して半分にしてもらったんですが、医師にはそれでも十分効果が出ていると言われています。
おお!今後の治療や仕事復帰の見通しは?
寛解が区切りだとは思いますが、治療は年単位の話です。
発症して今がちょうど1年くらい。治りのスピードは早いらしいので、来年までに良い変化が出てくれたら…とは思いますが、先のことは見えてないですね。
改めて振り返って、「慢性骨髄性白血病」という病に対してどういう気持ちを抱いていましたか
絶望感です。
診断されたときは周りに頼れる人がいないと思っていたので、孤独感や「どうして自分が」という気持ちも強かったです。
今も絶望感は続いていますが、1人で抱えている感じはないですね。
会社の上司、友人、自分の作品を見てくれている人たち。自分の周りにこんなに支えてくれる人がいるんだと知ったので。
今後やっていきたい活動や目標があれば教えてください
創作活動を通して「面白い」を表現したい。
笑えるコンテンツを作り続けることが、支えてくれた人への恩返しだと思っています。
その手段も、実況動画や1コマ漫画だけに縛られずにチャレンジしていきたいです。
最後に、ちょっと答えにくい質問かもしれませんが…。ともゆきさんの病気との付き合い方、距離感について考えていることを教えてもらえたらうれしいです
昨年の僕にとって、慢性骨髄性白血病と関わることは非日常でした。
でも、今はそれが日常になりつつあります。
治療を続けながら創作活動を行う日々を、新しい日常にアップデートしている感覚です。
執筆・編集:上野舞
撮影:恋水詩織
ジョンソンともゆき
ゲーム実況や1コマ漫画で人気を集めるマルチクリエイター。2013年から漫画投稿を始め、大手ポータルサイトで取り上げられるなど話題に。2015年にウェブコミック配信サイトでの漫画連載を開始、商業デビュー。著書は人気作品を集めた1コマ・4コマ漫画集『ゆかいなあつまり』(マイクロマガジン社)
ツイッター @tomo_yuki2525
ブログ ジョンソンともゆきの愉快なトコ
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そうだ、僕らは最初から壊すことが楽しかった。芸人の「魂」でさえも