昨今、児童虐待やネグレクトのニュースが度々取り上げられていますが、親の言動によって子どもの心や体だけではなく、脳にまで影響を与えてしまうことがあるようです。

 

不適切な子育てをあらわす「マルトリートメント」という言葉があり、今回はこのマルトリートメントによる子どもへの影響を医師に解説していただきました。

 

目次

 

 

マルトリートメントとは?

マルトリートメント(maltreatment)は、「不適切な養育」という意味です。

 

“mal”とは、マルウェア(悪意を持って作られたソフトウェア)・マレフィセント(悪事を行う)などで用いられる接頭語であり、「悪い」「適切でない」という意味です。

 

マルトリートメントは、児童虐待やネグレクトを合わせた意味で用いられています。

 

児童虐待

身体的虐待

 

・身体的虐待:殴る蹴るなどの暴行

・性的虐待:性行為の強要

・心理的虐待:暴言を浴びせたり目の前で夫婦喧嘩

 

ネグレクト

子どもの孤食

 

ネグレクトは育児放棄、適切な世話をしないことを指します。

 

・おむつを替えない

・食事を少ししか与えない

・学校に行かせない

・病院に受診させない

など

 

海外での考え方

身体的虐待・性的虐待・心理的虐待では何かを積極的に行うのに対し、ネグレクトは何かをしないという虐待のため、これらをまとめて扱うのは抵抗があるという意見もあります。

 

欧米ではネグレクトは虐待に含まれず「マルトリートメント=虐待+ネグレクト」という形で記載されることもあります。

 

また、子どもを戦争に駆り出したり、人身売買や児童婚に使用することもマルトリートメントの一種と考えられる場合があります。

 

 

ネグレクトの判断基準の難しさ


しかめっ面の夫婦

 

積極的に暴力を振るうというような虐待とは異なり、どこからがネグレクトなのかが判断しにくいという特徴があります。

 

例えば、以下のような考えの場合、言われればそうかもしれませんし、どう考えるかは難しいところです。

 

・「この子は小食でこれしか食べないんです」

・「うちは私の考えで予防接種は受けさせないんです」

・「病院の薬は副作用が心配なので飲ませず、民間療法の薬を使わせています」

・「宗教の教えと反するので、子どもは学校には行かせず、家庭教師をつけて勉強させます」

 

これは個人の信念による行動なのか、子どもから学校教育や友達と遊ぶ機会を奪っていると考えるべきなのか、論争があります。

 

 

マルトリートメントを受けた子どもの疾患リスク

子どもの鬱

 

人格障害

パニック障害

・解離性同一性障害

うつ病

摂食障害

・アルコールなどの依存症

・愛情剥奪性小人症(成長ホルモンが分泌されず背が伸びないという現象)

 

 

マルトリートメントの子どもの言動・性格

乱暴な子ども

 

わざと大人をイラつかせるような行動を取る傾向があり、里親の元や養護施設内でも虐待を受けやすいと言われています。

 

これは最初に受けた虐待により他人を信用できなくなり、愛着形成ができず、暴力や支配関係以外での人間関係を作れなくなってしまうことによるとされています。

 

逆に自分が加害者となり年下の子をいじめるといったこともあります。

 

 

マルトリートメントによる子どもの脳の変化

脳の構造 

マルトリートメントは、心理的な傷によるものと考えられていましたが、脳の変化を招く場合があるといったことが分かってきました。

 

虐待された子ども

海馬(記憶)や扁桃体(感情)が小さいと言われており、 うつ病や人格障害と深く関係しています。

 

また、以下のような研究結果があります。

 

暴言を受けた子ども → 脳の聴覚をつかさどる脳領域に異常あり

■ 家庭内暴力を目撃した子ども → 視覚をつかさどる脳領域が小さい

■ 体罰を受けてきた子ども → 感情や理性をつかさどる前頭前野が小さくなる

 

虐待されていない子ども

よく子どもの世話をする母ネズミに育てられた子ネズミは、海馬のステロイド受容体が多く、ストレスに強い体質になっているという研究結果もあります。

 

 

近年、問題になっているスマホ育児

スマホ育児 

スマートフォン、タブレット、テレビ、動画サイトなどを子どもに見せっぱなしにしたり、親がこれらに夢中になることで子どもとのふれあいが減っていることが問題となっています。

 

シンガポールでのニュース

シンガポールの小学生が、「僕はママのスマートフォンになりたい。ママが見てくれるから」というような作文を書いたと話題になりました。

 

今後の懸念点

スマートフォンなどが普及して間もないため、こういった現象が子どもたちに将来どのような影響を与えるのかは定かではありません。

 

「〇歳の場合、〇時間までは動画やスマホを見ても大丈夫だが、〇時間からは危険」といった医学的根拠のある指針はまだありません。

 

将来的には、喫煙と同様、「子どもの前でスマホをいじるのは虐待の一つ」と言われるようになるかもしれません。

 

 

最後に医師から一言

育児疲れの主婦

 

虐待する親は自分も虐待を受けていたり、経済的・社会的に追い詰められている場合が多く、ただ親を責めるだけでは解決になりません。

 

非難の目を向けたり厳罰を下すのではなく、重大事になる前に親子ともどもケアする体制が必要です。

 

(監修:Doctors Me 医師)

 

 

参考文献

・奥山眞紀子 学術の動向 2010 マルトリートメント(子ども虐待)と子どものレジリエンス

・友田明美 診断と治療社 いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳

・友田明美 NHK出版新書 子どもの脳を傷つける親たち

・柏原恵龍 関西外国語大学研究論集 2004 被虐待児における海馬の萎縮とニューロン新生にむけて