脳梗塞といえば寒さが厳しい冬に起こるイメージですが、実は夏にもその発症が多いことをご存知でしょうか。

 

これからの暑い季節に向けて注意すべきことや、早期発見するために知っておきたい脳梗塞の前触れなど、医師の松本先生に解説をお願いしました。

 

 

「脳卒中」と「脳梗塞」の違いとは?

頭を押さえる女性

 

脳卒中とは、脳(内)出血くも膜下出血脳梗塞、脳塞栓などの脳血管疾患を全てひっくるめた呼び方です。

 

脳(内)出血

脳(内)出血とは脳に流れる血管が破れて出血し、その血管が酸素や栄養を届ける脳の部分に血液が届かなくなり脳の一部が死んでしまう病気です。

 

最近は高血圧に対する危険性の認識が普及し発症数は減ってきているものの、喫煙、糖尿病、高血圧、肥満、アルコールなどの生活習慣病を原因とした動脈硬化によって起こる場合がほとんどです。

 

症状は、手足が動かしにくい(麻痺)、しゃべりにくい、言葉が思い出せない(構音障害、失語)、目が見えなくなる(半盲)、目が覚めなくなってしまう(意識障害)など、また大きな出血の場合は死亡することもあります。

 

くも膜下出血

くも膜下出血とは、脳の表面を覆う膜の一つのくも膜の下の空間に出血が生じることで、その多くが脳動脈瘤の破裂によって起きます。

 

動脈瘤は生まれつき脳の血管が弱い部分がある場合に、そこに血圧がかかって、血管が袋のように飛び出してしまったものです。

 

突然の、今まで経験したことがないような激しい頭痛が突然起きることが多く、吐いたり意識を失うこともありますが、ごく軽い頭痛の場合もあります。手足の麻痺などは必ず起きるとは限りません。

 

働き盛りの若い世代に多く、社会復帰できるのは約1/3程度とされ、あっという間に亡くなってしまう確率も高い病気です。

 

脳梗塞

脳梗塞とは、脳内の血管が詰まってしまい、その血管が酸素や栄養を与えている部分に血液が届かなくなることで、脳の一部の細胞が死んでしまう病気です。

 

原因や症状は脳出血と似ており、麻痺、構音障害や失語、などの症状が突然現れますが、まったく症状のないこと(無症候性脳梗塞)もあります。

 

この3つのうち、最も発症する数が多い疾患が脳梗塞です。その割合は脳梗塞:脳出血:くも膜下出血が13:5:2程度で、圧倒的に脳梗塞が多く発症しています。 *1

 

 

どうして脳梗塞は起きるの? 

頭痛がある男性

 

脳梗塞は脳の血管が詰まって、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり脳細胞が死んでしまう病気ですが、主に3種類あります。

 

アテローム型

比較的大きな血管が動脈硬化によって徐々に狭くなり血が流れなくなってしまう脳梗塞です。

 

違う場所に回り道の血管ができている場合も多く、あまり症状が出ないこともあります。

 

脱水や血圧が下がりすぎて血流が悪くなるような状態で起きやすいので、寝ている間に発症し朝起きて気が付いたり、サウナや運動で汗をかいて発症したりなどということがあります。

 

ラクナ型

ラクナ(=小さな穴)梗塞は、細い血管が詰まって起こる小さな脳梗塞です。

 

症状がないことも多いですが、この脳梗塞がたくさん起きるとパーキンソン症候群や認知症の原因となります。

 

塞栓型

心臓などでできた血の塊が脳まで運ばれ、脳血管が詰まるために起きる脳梗塞です。元読売ジャイアンツ監督の長嶋茂雄さんなどもこちらにあたります。

 

脳の血管自体には問題はありませんが、いきなり大きな血管が詰まってしまうために症状がひどくなるものが多いです。心房細動などの心臓の病気があると発症率が高くなります。

 

どの型の脳梗塞においても、どの血管が詰まり、どこの脳細胞に障害が起きたかによって、どんな症状が起きるかが変わってきます。

 

 

後遺症はどんなものがあるの? 

リハビリする女性

 

脳梗塞が起きると、酸素や栄養が運ばれずに脳の細胞が壊死し、治療後にも以下のような後遺症を残すことがあります。

 

・手足の片麻痺(右半身か左半身の手足に力が入らず、動かせなくなる)、右半身か左半身の手足の感覚がわからなくなる

・顔が動かしにくく、その反対側の半身の手足が麻痺する

・両方の足が動かなくなる(対麻痺)

・片目が見えなくなる

・両目とも同じ側が見えなくなる

・ものが二重に見える

・歩きにくい、歩けるがグラグラする

・ろれつが回らない

・言葉がわからない、思いつかない

・うまく飲み込めない 

 

上記の中でも脳のどの部分にどの程度の障害が起きたかによって症状も大きく変化しますし、リハビリテーションの効果も異なってきます。

 

 

脳梗塞の前兆はどんなもの?起こる前に予防できる?

頭痛がある女性

 

特にアテローム型の脳梗塞では前兆として「一過性脳虚血発作」が起きることがあります。

 

症状としては、一時的に片目が見えなくなる、グルグルと目が回る、吐く、ろれつが回らない、片方の手足や顔が動かしにくい、歩きにくい、まっすぐに立てない、などといったものが一時的に出ますが、数時間~24時間以内で改善します。

 

数時間くらいで症状が良くなると、まぁ大丈夫かと思ってしまうかもしれませんが、その後48時間以内に再発し本格的な脳梗塞を発症することが多いので油断してはいけません。 

 

できるだけ早く治療を開始する方がよいので、気がついたらすぐに脳血管の病気を専門にしている医療機関を受診しましょう。

 

 

脳梗塞はいつ起こりやすい?これからの季節に注意すべきことは?

脱水症状の女性 

脳卒中全体では冬から春にかけての寒い時期に多く、温かい時期には少ないとされます。

 

しかし、2002年から2008年にかけて脳卒中を46,000例にわたり調査した結果では、脳出血とくも膜下出血は秋から冬が多く、脳梗塞全体(軽症から重症まで全てを含む)は季節変動があまりなく、ラクナ梗塞のように細い血管が詰まる脳梗塞では冬だけでなく夏にも多いという結果が出ました。*2

 

全体の件数から考えると脳梗塞が占める割合が多いので、脳卒中は1年中いつでも起こりやすい、と言えるでしょう。

 

夏は「脱水」に注意

脱水により血液が濃くなると血栓ができやすくなり、血圧が下がることで心臓より上にある脳は血液が行き届きにくくなります。

 

夏は汗をかきますので、しっかり水分補充をしていないと脱水になりやすくなるので要注意です。エアコンが効いて乾燥した部屋では、汗をかいた実感がなくても水分が肌から失われて脱水になりやすいです。

 

また、アルコールや清涼飲料水やコーヒーなどに入っているカフェインも利尿作用があり、水分が失われて脱水になりやすいとされています。

 

夏場の脱水の予防には意識的に水や白湯を飲むことが第一です。運動などで大量に汗をかいたときは水分と同時に塩分も失われるので、スポーツドリンクを3倍くらいに薄めたものや、経口補水液を飲むのも良いでしょう。

 

 

最後に松本先生から一言 

枕元に水分を用意する女性

 

脳梗塞は一度起きると後遺症などにより人生をおびやかす恐れのある病気です。しかも自分だけでなく家族全員の人生にも影響する可能性があります。

 

脳梗塞の原因は生活習慣がほとんどですから、日々の食事や生活を適切なものとすると同時に、夏場は特にこまめな水分摂取が重要です。

 

水でも良いですし、スポーツドリンクなどでも良いですが、なるべくブドウ糖果糖液糖や人工甘味料などが使われていないものを選びましょう。濾過した水に生蜂蜜とレモン汁を入れた蜂蜜レモン水にちょっぴり海塩を入れて自分で作るのも良いかもしれません。枕元に水を置いておくのもお忘れなく!

 

参考資料

*1 『日本の脳卒中の発症者は年間29万人 半分以上が死亡や介護が必要な状態に』 日本生活習慣病予防協会

*2 『脳血管疾患② くも膜下出血』に本成人病予防協会

*3 Toyota, A. (2011). Seasonal variation in stroke incidence in Japan: 46,000 cases in Rosai Hospitals’ registries, 2002–2008. Nosotchu, 33(2), 226-235.

 

プロフィール

監修:医師 松本 明子
1968年生まれ、鳥取大学医学部卒業。広島の病院で内科勤務した後、2009年~海外転出し、アメリカで予防医学を学ぶ。 2013年~「DNA Diet and Lifestyle遺伝子に沿った食事と生活」という、オンライン健康プログラムにより自然治癒力を最大限に引き延ばす、老化と病気の予防と治療のための健康指導を行っている。