産業医をしていると、メンタルヘルスの不調によって休職される人とお話をすることがあります。もちろんその中には、本人としては休職を望んでいなくても、病院の主治医の判断によって休職を勧められる人もいます。

 

そのような人は「自分が休職することで周りに迷惑をかけるのではないか」という罪悪感を抱いていることが少なくありません。周囲への迷惑を気にしてなかなか休職に踏み切ることができず、症状の悪化を招くことも。

 

そこで今回は、休職がどのようなものなのかについてお話をしたいと思います。

 

目次

 

 

産業医が解説。昨今の休職をめぐる状況

休職に至る原因というのはさまざまです。もちろん、体の怪我や病気によって会社に出勤することができなくなってしまう状況もあります。

 

しかし、最近は精神的な不調(いわゆる心の病気)による休職が増えてきています。精神的な不調の原因としては、明らかな過重労働や職場の人間関係が影響していることも多いです。仕事の質や量であれば、上司などに相談して調整してもらえることもありますが、人間関係は簡単に変えることができず長期間のストレスを抱えます。

 

ここで言う人間関係とは、職場での上司と部下、同僚との関係などを想像する人も多いかもしれませんが、実際は「クレーマー」と呼ばれるような高圧的なお客さんとの人間関係トラブルもあります。

 

「人間関係のストレス度」チェックしてみませんか?

 

休職してもいいの?休んだほうがいい症状と判断目安

休職を悩む女性

 

普段働いてる人が休職を検討する際には、かなりの心理的な抵抗があるはずです。

 

その理由としては、自分が休職することによって今自分が携わっている仕事を誰かにお願いしなければならず、「迷惑をかけてしまう…」「負担をかけてしまう…」といった考えが浮かんできてしまい、なかなか踏み切ることができないためです。

 

しかし、よく考えてみてください。主治医が休職を指示するほどの状態というのは、症状がひどく仕事においても支障をきたしていることが多い状況なのです。とはいえ、すでにこの段階で自分の状況を客観的に見られないくらいに、思考の整理が難しい状態になっている人もいるでしょう。

 

休職を検討するタイミング。こういう症状が出たら注意!

仕事に影響が出ているとなれば、すでにストレスによる体の症状が現れている可能性が高いです。

 

身体症状で言うと、例えばめまい頭痛動悸吐き気などの症状が強くあらわれ、仕事に遅刻をしたり休む日が増えたりして勤怠が乱れるようなケースが考えられます。

 

また精神症状としては、朝から気分が落ち込んで何もやる気が起きないような状態が続き、体にムチ打って出勤しようとしても、結局は長続きせずに普通に出社することが難しくなったり、勤務中に体調を崩す可能性もあります。

 

特にそれが不眠などの睡眠障害となって現れている場合は危険です。それによって集中力や思考力が鈍り、あなたの能力では考えられないようなミスが続いているようなときは、休暇を取ったり療養したりすることを検討したほうがいいでしょう。

 

実は身近な不眠症。原因や対応策、睡眠薬の正しい使い方など

 

休職に必要な診断書。どこで書いてもらえる?

休職の診断書

 

社内規定にもよりますが、原則、会社を休職する際には主治医の診断書が必要になります。かかりつけの心療内科や精神科でなくても、明らかに症状が悪いときには初診の医療機関で診断書が即日発行されることも少なくありません。

 

診断書に記載される最低限の項目としては、病名および現時点の体調から考えられる休職の必要期間です。医師によっては、症状の悪化を防ぐために「会社からの電話連絡を禁止として、メールでのやり取りのみ可能」など休職期間中の会社の対応方法まで記載しているケースもあります。

 

病院で発行される休職の診断書は、診察代金とは別に自費で請求されます。この値段には決まりはなく医療機関によってまちまちですが、3000円前後であるところが多い印象です。正確な値段は、受診する医療機関に確認してみてください。

 

《心療内科と精神科の違い》症状・病気別にそれぞれ区別しよう

 

休職したらどうなる?クビや生活費が心配

休職することが決まったら、 会社の人事総務部に自分の休職が可能な期間を確認してください。これも会社規定次第ですが、勤労の継続年数によって休職可能な期間が変わることも多いので、どれくらいまで休職ができるかを確認しておくと安心です。休職を続けていたら知らないうちに退職になっていたということだけは無いようにしておきましょう。

 

収入減の代わりに傷病手当金を申請

また、休職になった瞬間から収入がゼロになることを防ぐために、サラリーマンなどで健康保険に加入されている場合は傷病手当金を申請できることがあります。これによって各標準報酬月額を平均した額×三分の二ほどの収入を確保できます。

 

休職に入る際に会社の人事総務部の担当者に申請方法などを確認しておきましょう。

 

休職中の過ごし方

休職中の過ごし方

 

病気の種類や症状によって適切な過ごし方は変わってきます。なので、休職中の過ごし方が分からないときは主治医に確認するのが確実です。

 

例えば、過重労働がきっかけでうつ病を発症したケースは、原則として2つの期に分けて考えます。それが、ダラダラ期と活動期です。

 

ダラダラ期というのは、徹底して頭と体を休ませる過ごし方をする時期です。決して規則正しい生活を送ろうとは考えず、たとえ昼夜逆転しても構わないので寝たいときに寝て食べたいときに食べるくらいにダラダラと過ごして下さい。

 

そこからある程度症状が回復してくると、人間の体内時計によって自然と生活リズムが整ってきます。サラリーマンの休日のような少し乱れているけれども整っている部分もある、そんな過ごし方ができるようになってくるでしょう。

 

その時期がまさに活動期の開始地点です。体力をつけるために定期的な運動をおこなったり図書館で仕事に関わる本を読んでみたりして、就労しているときのような負荷を自分にかけ、不調が起こらないかどうかの確認をするようにしてみてください。

 

気分の落ち込みやうつっぽさ。軽い運動で改善ってホント?

 

休職から復職に向けてのアドバイス

復職した直後は、今まで休んでいた分を取り戻そうと張り切ってしまう人がいます。しかし、まずは自分に無理をさせないよう仕事のパフォーマンスに重きを置かず、継続して出勤することだけを目標にしてみてください。

 

最初の3か月ぐらいは、残業禁止や時短勤務といった何かしらの業務的配慮を受けて復職することがほとんどです。そのあたりのリハビリの具合は、産業医や上司を交えて話を進めていきましょう。

 

まとめ

休職することは人生でも大きな決断であり、抵抗があることは理解できます。ただ、健康を損なってまでやらなければならない仕事というものは、この世の中には一切ないことだけは忘れないようにしてください。自分と愛する人の幸せを第一優先としてくださいね。

プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。