食事や運動が体の健康にとって重要であることは十分に知られていますが、最近ではメンタルヘルスにおいても食事や運動が大切であることが指摘されています。

 

脳に必要なホルモンを作る材料を食事から摂取することを考えれば、食事によって精神的なバランスが左右されることは理解できると思います。ところが、運動がどのようにメンタルヘルスに関わってくるのかついては、イメージが湧かない人も少なくないでしょう。

 

そこで今回は、運動がどのようにメンタルヘルスにポジティブな影響をもたらすのか、さらに、どのような運動が効果的なのかについてお話をしたいと思います。 

 

目次

 

 

気分の落ち込み(抑うつ)や不安が起きるメカニズム

そもそも、私たちはどのようなメカニズムで気分が落ち込んだり、不安になったりするのでしょうか。それを説明するのに決して外すことができない脳の部位が扁桃体です。

 

脳の構造と扁桃体

 

私たちが何かを見たり聞いたりすると、色々な情報が脳の中に飛び込んできます。そして、その情報を扁桃体が自分の身にとって危険かどうかを一瞬で判断します。危険なものと判断されると、不安や恐怖という感情が生まれるメカニズムなのです。

 

このとき、危険であるかどうかの二択ではなく、それがどのくらい危険なのかも含めた「程度」も合わせて判断されます。野生のライオンを見たときの恐怖と動物園で見たときの恐怖は異なりますよね。

 

これらの感情の動きは、扁桃体が誤った興奮をして必要以上の恐怖や不安を感じないように、脳の前頭葉という部分がセロトニン神経とGABA神経を介してコントロールしてくれています。

 

しかし、多くのストレスを抱えてしまうと前頭葉の機能が落ちてしまい、扁桃体をコントロールできずに必要以上にイライラしたり不安になったりします。

 

同様にセロトニンが不足すると、扁桃体をうまくコントロールできずにネガティブな感情があふれてくるのです。

 

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気分の落ち込みや不安といったネガティブな感情にならないようにするためには、セロトニンを不足させずに扁桃体を適正にコントロールすることが必要です。

 

そこで出てくるのが、運動です。実は、運動にはセロトニンを増やす効果があるため、習慣的に運動をする人はメンタルヘルス不調に陥りにくくなるのです。

 

また、扁桃体で危険なものと感じた情報は延髄(えんずい、脳幹の一部)に伝わり、そこからさらに自律神経に伝わります。すると動悸がしたり呼吸が早くなったりと体の変化が起きるようになります。

 

しかし、運動をすることで延髄にある扁桃体からの情報をキャッチする受け皿が減るために、もしも不必要に扁桃体が興奮してネガティブな情報を送ってきてもそれを必要以上に受け取ることがなくなります。その結果体が反応せずに済み、穏やかに過ごすことができるのです。

 

 

運動は心の状態にどのような影響を与えるの?

運動とメンタルの関係

 

では、運動をすることで実際の生活面においてどのような効果が期待できるのでしょうか。

 

ネガティブな感情を作り出す扁桃体が過剰に興奮しないようになり、たとえ過剰に興奮してもそれが伝わりにくくなるということを先ほど説明しましたが、それによって、些細なことに対して不安を感じることがなくなり、物事をおおらかに捉えることができるようになります。

 

また、ちょっとしたことでイライラしたり、攻撃的になることも抑えられて、人間関係における摩擦を減らす効果も期待できるかもしれません。

 

さらにはセロトニンを増やすことにもなるので、気分が落ち込みやすいことを改善する働きもあります。

 

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メンタルヘルスによい運動とは、セロトニンを増やすことが目的の運動です。そのため、脂肪燃焼を目的としたダイエットなどでよく耳にする運動とは全く別のものになります。

 

セロトニンを増やす運動としてのキーワードはリズム運動です。これは名前のとおり一定のリズムで行う運動のことです。たとえば、

 

①ウォーキング、サイクリング

②縄跳び

③ダンス

 

の3つはイメージしやすいリズム運動になります。特に、ウォーキングは一番手軽に始められるのではないでしょうか。

 

息があがるような勢いで行う必要はありません。1回30分ほどを目安に、一定のスピードとリズムを意識して運動してみましょう。普段から運動習慣がない人なら最初から頻回に行うのは難しいかもしれないので、週3回以上を目標にしてしてみましょう。

 

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井上先生からのアドバイス

運動とメンタルヘルス

 

今まで「運動」と聞くとハードでへとへとになるイメージがあったと思いますが、メンタルヘルスを安定させるため、すなわちセロトニンを増やすための運動は決してハードなものではありません。

 

また、最初から張り切りすぎる必要もなく、何よりも継続できることを意識しながらやってみましょう。

 

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プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。