妊娠によって身体には様々な変化が起こりますが、実は「胃もたれ」もそのひとつです。

 

妊婦さんが胃もたれになる原因は時期によっても異なり、場合によってはずっと悩まされることも…

 

今回は、妊婦さんが少しでも快適に過ごせるよう、つらい胃もたれを和らげるための対策を医師が解説します。 

 

目次

 

なぜ妊娠すると胃もたれしやすくなるの? 

胃もたれに悩む妊婦

 

まず、胃もたれしやすくなる原因ですが、妊娠の時期(初期、中期、後期)によって異なります。

 

妊娠初期

胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピンというホルモンの影響や精神的要因により、吐き気食欲不振を主症状とする「つわり」を経験する方も多いですが、その症状として胃もたれを訴える場合もあります。

 

妊娠中期

つわりの時期を過ぎても胃もたれを感じる場合、妊娠を維持するプロゲステロンというホルモンが関与しているかもしれません。

 

プロゲステロンは、流産を防ぎ妊娠を維持させるために卵巣から分泌され、妊娠初期から出産まで血中濃度が増加し続けます。胃の筋肉を弛緩させ、胃から十二指腸に食べ物を送るぜん動運動を弱めますので、胃に長い時間食べ物が留まりやすくなり、胃もたれが生じるのです。

 

 

妊娠後期

胎児の成長に伴って子宮体積が増大するとき、胃は物理的に圧迫され、押し上げられます。

 

つまり、胃が十分に膨らまず、胃から食べ物を排出するスムーズな動きが阻まれる状態となるため、「一度にたくさんの量が食べられない」「胃がもたれる」といった症状につながるのです。

 

妊娠中の胃もたれはいつまで続く? 

疑問がある妊婦

 

つわりに伴う胃もたれの症状のみであれば、妊娠5カ月目には症状が落ち着いてきます。

 

プロゲステロンの働きで胃のぜん動運動が弱まることによる胃もたれは、出産まで続いたり、出産前にピークとなることもあります。

 

 

食べ物で気をつけることは? 

食事中胃もたれ

 

胃もたれがある場合、全妊娠期間を通して、次のような対策が必要です。

 

・豆腐、ヨーグルト、ゆで卵、鶏のささみなど消化しやすいものを摂取する

・野菜類は、ミキサーにかけたり時間をかけて煮込んだりする

・よく噛んで食べる

・胃もたれの間接的原因である便秘を防ぐため、不溶性食物繊維を多く含むもの(雑穀、野菜、豆、きのこ、果物、海藻)や水分を摂取する

 

また、妊娠初期はつわりの影響を最小限に抑えるために、特に脂っこいものや刺激物の摂取を控えるようにしましょう。

 

一方、妊娠中期以降は、1日の食事回数を5〜6回とし、1回の食事量を減らすことで、胃への負担を軽減することが可能です。各食事の間隔は最低2時間以上とし、寝る前の食事は睡眠3時間前までにとるとよいでしょう。

 

 

妊娠時の胃もたれを少しでも楽にするには?  

横になる妊婦

 

横になるときの姿勢も胃もたれの症状に影響を与えます。

 

食道・胃・十二指腸の位置を考えると、非妊娠時であれば、胸やけが強い場合は左向きに横になり、胸やけのない胃もたれの場合は右向きに横になると症状が和らぐことが多いです。

 

妊娠中期以降は胎児の重さによって仰向けや右向きに寝ると母体の腹部の静脈が圧迫され、血圧が低下して吐き気等の症状が出ることがあるため、左向きに寝るのがよいとされています。

 

右向きに寝るのは妊娠初期までにしておくとよいでしょう。

 

 

胃もたれの薬は飲んでもいい?病院に行くべき? 

医師に相談する妊婦 

市販薬にも処方薬にも、妊娠中に服用できるものと、そうでないものが存在します。

 

胃もたれに影響する便秘を防ぐために、酸化マグネシウムや乳酸菌・ビフィズス菌などは妊娠中でも使用されることがあります。

 

一方で胃酸の分泌を抑える成分や胃のぜん動運動を調整する成分には、胎児への影響が明らかにされていないものも多いため、服用に際しては必ず医師に相談してください。

 

市販薬について相談される場合は、成分が記載された添付文書を医師に提示することをお勧めします。

 

 

最後に吉田先生から一言

リラックスする妊婦

 

妊娠中はちょっとした症状に対しても不安が強くなりがちです。胃や腸は、このような精神的な変化に敏感に反応しますので、不安がかえって、消化器症状の悪化を引き起こしかねません。

 

神経質になりすぎず、リラックスする時間を大切にしてください。

 

参考資料

日本産婦人科学会誌50巻6号

Matos, J. F., Americo, M. F., Sinzato, Y. K., Volpato, G. T., Corá, L. A., Calabresi, M. F. F., … Miranda, J. R. A. (2016). Role of sex hormones in gastrointestinal motility in pregnant and non-pregnant rats. World Journal of Gastroenterology, 22(25), 5761–5768. 

プロフィール

監修:医師 吉田 菜穂子