便の形状は健康のバロメーターにもなりますが、排便の際に便が細くなっていたら、身体のどこかに問題があるのかもしれません。
大腸がんなどの重篤な病気が隠れている可能性もあるので、色や硬さだけではなく、太さも気にかけて、ご自身の健康状態をこまめにチェックしてみてください。
今回はその原因や改善法などを、医師の松本先生にお話を伺いました。
原因
便はバナナ状が理想的な太さです。しかし、細くなる以下の原因による状態は、腸粘膜バリアが大なり小なり異常になった状態で、腸管内の細菌のバランスが悪くなっています。
ストレス
精神的にも身体的にもストレスがあると自律神経が乱れ、大腸の動きに異常が出ます。水分の吸収や栄養素の吸収が低下したり、大腸が収縮し過ぎても便が細くなります。常にこの状態が続いて言えるのが過敏性腸症候群とも言えるでしょう。
悪い食事
繊維などの食べ物の残りかすが少ないと便の量が充分にできず、細くなります。特に葉物野菜などに含まれる水に溶けない食物繊維が足りないと量が減ります。
また、減量目的などで過剰な食事制限をしても同様に減ります。
腹筋の力の低下
便を押し出す力が弱いと細くなることもあります。
肛門が狭い
便が硬く、切れ痔を繰り返して肛門が傷跡で硬くなって広がりにくくなると、便は狭いところを出てくるために細くなります。
同じように、圧力がかかりすぎて肛門に傷が付いて治る、ということを繰り返しても肛門が硬くなり、細い便が出やすくなります。
直腸がん、下部大腸がん
肛門に比較的近い部分で大腸が狭くなると、進行した切れ痔で肛門が硬くなった時と同じように、狭いところを出てくるために細くなります。
肛門のすぐ側のポリープ
出口をふさぎ、便が細くなる原因になります。
腹部手術後、子宮内膜症や憩室炎など
大腸に癒着がおき、狭い部分ができる場合も細くなる原因になります。
便の状態、症状
色
■ 黒
ドロッとして炭のような便の場合、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの出血のことがあります。
かなり大量に出ていますので、できるだけ早く消化器内科などに行くことが必要でしょう。
■ 赤
鮮やかな血が出る場合、肛門や肛門近くで出血しています。切れ痔、大腸線種などのポリープ、大腸がん、直腸潰瘍、潰瘍性大腸炎などのこともあります。
出血の程度によって、すぐさま緊急受診すべきかどうかは変わりますが、量が多くなくても長期間放置するのは、よくありません。
硬さ
正式には軟便も泥状便も下痢ですが、形があれば一般には軟便と呼ばれます。前者は水分量が通常よりもやや多い状態、後者はかなり多い状態と考えられます。
残便感が続く
何度も排便するのに少しずつしか出てこない、残った感じがあることで、直腸や肛門などに狭い場合もあります。
排便前にお腹が痛む
大腸に便がたくさんたまっていて、あるいは急激に腸が動いて痛くなることがあります。
便秘と軟便(下痢)を繰り返す
過敏性腸症候群では便秘と下痢や軟便を繰り返す場合がしばしばあります。大腸がんのように狭い部分があっても同様のことがあります。
ガス
甘酸っぱい臭いのおならならば良いですが、臭いおならの場合、消化管の機能が低下して、悪玉菌が繁殖している可能性が高いです。
また、タンパク質に偏った食事や、質の悪い油の多い食事でも、臭くなるでしょう。これらは、食べものの質を上げることで多くは改善しますし、納豆やザワークラウトなどの発酵食品を増やすことでも改善します。
トイレに行く回数
排便回数は1日2〜3回が妥当です。それ以上の場合、便はたくさんあるのに狭い部分があって通らない可能性ありますし、消化不良の可能性もあります(急性の腸炎を除く)。
期間
1〜2週間程度でバナナ状の便が出るようになればそれほど問題ないでしょう。それ以上続くときは一度診察してもらった方がよいでしょう。
治療法
受診科目
・消化器科、胃腸科:一般に大腸全体を診ます。
・肛門科:一般に肛門~直腸を診ます。
検査内容
・便潜血(便の中に血が混じっているかどうかの検査)
・大腸内視鏡、直腸鏡、肛門鏡
・バリウム検査
治療内容
・腸管の癒着、大腸がん、ポリープ、切れ痔、など検査でわかる狭窄や腫瘍がある場合は手術やバルーン拡張術
・過敏性腸症候群と考えられる場合は食事や生活の適正化やプロバイオティクスを摂取する
など
自分で改善する方法
過敏性腸症候群の場合、食事の適正化とストレス管理で腸内細菌を健全化するとかなり良くなります。
もともとの腸管の状態に寄りますが、繊維の多い食事(野菜や果物)と、良い菌を含んだ食べ物(納豆、質の良いヨーグルト、質の良い漬け物など)を太陽が出ている間によくよく噛んで食べると共に、瞑想などで精神状態を安定化することが良い腸内細菌を増やします。
大腸がん、ポリープ、癒着、潰瘍性大腸炎などの病変がある場合は自分で治すのは難しいでしょう。尚、薬によっても軟便になることがありますので、主治医の先生と相談することも大切です。
最後に医師から一言
「全ての病は腸から」とは2000年も前のギリシャのお医者さんのヒポクラテスの言葉です。ヒトの体はヒトの体の細胞の数よりもずっと多い腸内細菌との共生で初めて健全に機能します。
細い便や軟便や腹痛に代表される機能性胃腸症(過敏性腸症候群)は、目ではわかりにくい細胞のレベルで腸管の細胞の機能が低下しています。
大腸がんや潰瘍性大腸炎などの重篤な病気も、高血圧や糖尿病やアレルギーやその他のがんも、腸粘膜バリアなど腸の状態と深く関わっているともいわれています。
健康な腸を目指して、よりよい食事と生活に変えていきましょう。
プロフィール
- 監修:医師 松本 明子
- 1968年生まれ、鳥取大学医学部卒業。広島の病院で内科勤務した後、2009年~海外転出し、アメリカで予防医学を学ぶ。 2013年~「DNA Diet and Lifestyle遺伝子に沿った食事と生活」という、オンライン健康プログラムにより自然治癒力を最大限に引き延ばす、老化と病気の予防と治療のための健康指導を行っている。