なにか痛みを感じて医療機関で診察を受ける際には、どんな痛みなのかを先生に伝える必要がありますよね。実は、痛みを医師に伝えるときの表現によって、疑われる病名が大きく変わってくるのです。

 

重篤な疾患の場合、こうした初期の”疑い病名”が正確であればより迅速な対応ができるため、痛みの種類や表現法を知っておくことは、生存率を高めることにつながり、いざというとき役立つかもしれません。

 

今回は、日本救急医学会ICLS認定インストラクターの資格も持つ、精神科医の井上智介先生に、痛みの種類とそこから医師がピンとくる病気について解説していただきました。

 

 

1:バットで殴られたような頭の痛み

バットで殴られたような痛み

 

この「バットで殴られた」という表現には、ふたつの意味があります。

 

ひとつは今までなにも症状がなかったが、急激に頭痛が始まったという意味です。ふたつ目は今までの人生で最大級の痛みを伴う頭痛、ということです。

 

これらから最初に考えられる病気はくも膜下出血です。非常に緊急性が高い疾患ですので、こうした頭痛を感じたときにはすぐに救急車を呼んでください。

 

救急科の受診においても診察や検査の結果でくも膜下出血が疑われると、早急に脳外科医に連絡がいき適切な処置が行われます。

 

 

2:なにか重たいものが乗っているような胸の痛み

なにか重たいものが乗っているような胸の痛み

 

胸のあたりがグーッと締め付けられるような痛みで、人によっては胸に象が乗っているような痛みと表現される方もいます。胸がチクチクと針でさされるような痛みとはまた異なった痛みです。

 

このような痛みから考えられる病気は心筋梗塞を真っ先に疑います。これも生死に関わる疾患なので、こうした痛みを感じたらすぐに救急車を呼んでください。

 

これも救急車から救急科を受診することになり心筋梗塞であることが分かると、早急に循環器内科の対応となり適切な処置が行われます。

 

 

3:じっとしていても感じる背中の痛み

じっとしていても感じる背中の痛み

 

背中の痛みは体を動かしたときに痛みが強くなるものであれば、筋肉や骨の痛みを最初に疑います。しかし、体を動かしていなくても背中の痛みが変わらない場合には、内臓が原因の痛みを考えます。

 

背中の痛みのなかでもとくに裂けるような痛みや、痛む部位が移動しているような場合は緊急性が高く、急性大動脈解離を一番に疑います。

 

急性大動脈解離は生死に関わる疾患ですので、救急車ですぐに受診することが必要です。迅速な問診や検査で急性大動脈解離と分かれば、心臓血管外科医によって治療が行われます。状態によっては緊急手術を行う可能性もあります。

 

 

4:喉の痛み

喉の痛み

 

典型的な風邪のときには、喉の痛みだけでなく鼻水などの症状が同時に現れることが多いですが、喉だけが痛いときは風邪以外の疾患を考慮します。

 

とくに喉の痛みに加えて以下のような症状がある場合は、風邪ではなく溶連菌性咽頭炎の可能性がありますので十分に注意してください。

 

・38℃以上の熱

・前頚部(首の前側)のリンパ節が腫れ、押すと痛い

・扁桃腺が真っ赤に腫れている

・喉の奥に白いコケのようなものがべったりついている

 

救急車を呼ぶ必要はなく、近くの内科を受診してください。風邪であれば抗生剤は不要ですが、溶連菌性咽頭炎ならば抗生剤で10日間ほどの治療が必要になります。

 

 

痛みを表現する6つのポイント

痛みを表現する6つのポイント

 

痛みの症状で病院を受診すると、医師は以下のようなことを問診でたずねる場合が多いです。

痛みの原因を知るためのポイント

1. 痛みの場所はどこか
2. いつから痛みがあり、どのような経過か
 (ずっと同じ痛みか、波があるか、など)
3. どのように痛みが出てきたのか
 (ゆっくりジワジワと、急激に、など)
4. 痛みが悪くなったり楽になる要素があるか
 (体を曲げると痛みが楽になる、など)
5. 痛みの性質はどんな痛みか
 (ジワジワ痛い、重苦しく痛い、など)
6. 痛み以外の症状はあるか
 (喉が痛いが鼻水も出ている、など)

こうして得られた情報に応じて診断を考え、適切な検査ができるように対応していきます。だからこそ、適切な診断のために、上記のようなポイントをふまえてなるべく的確に痛みのことを教えてほしいのです。

 

 

最後に井上先生から一言 

痛みは、どのような疾患でも起こる可能性があり、とても身近な症状です。身近とはいえ、痛みは人のパフォーマンスを落としてしまうだけでなく、痛みの背景には命に関わるような重篤な疾患が隠れている可能性もあります。

 

どのような痛みのときには救急車が必要になるのか、緊急性が高い疾患が考えられのるか、このあたりをある程度知っておけば、上手に受診することができるのではないのでしょうか。

プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。