子どもが朝ベッドからなかなか出てこない、学校にもよく遅刻してしまう… こんな状況が続くと怠けているのではないかと思いがちです。

 

実はこうした症状には「起立性調節障害」という病気が隠れている可能性があります。そして、この病気は周囲の人が「怠けている」と決めつけることで悪化することもあるのです。

 

起立性調節障害とはどんな症状なのか、周囲の人はどう接していくべきなのか、小児科医の武井智昭先生に解説していただきました。

 

 

起立性調節障害とは

子を囲み話をする親

 

起立性調節障害は、自律神経のアンバランスにより以下のような症状がみられる状態です。

 

・朝起きられない

倦怠感

・立ちくらみ

頭痛

動悸 

 

これらの症状をふまえて、生活への支障の度合いにより重症度が判断されます。

 

朝は調子が悪く、午後や夕方からは症状が改善する傾向があります。このため家族や周囲からは怠けているように見えてしまいますが、決して本人が怠けているわけではなく、自律神経のバランスがうまく整わないことによるものです。

 

 原因

起立性調節障害は、自律神経の働きがアンバランスなことにより、寝ている状態から体を起こした際に全身の血流の変化が不十分となり、脳の血流が不十分になることで生じると考えられます。

 

他にも、水分や塩分の不足、思春期のホルモンバランスの変化、心理的・社会的なストレス(学校や家庭、習いごとなど)、そして「朝起きて学校へ行かなくてはいけない」というプレッシャーが病状の悪化に関与しています。

 

 

かかりやすいのはどんな人?

真面目な女子学生

 

起立性調節障害は、男児よりも女児の方が多く発症する傾向にあり、小学校高学年(10歳頃)から次第に増加して、高校3年生くらいまでの間が発症のピークとなります。

 

発症しやすい性格としては、几帳面・真面目・正義感が強いといった性格の人が何かのストレスや失敗を契機に発症する傾向があるとされています。

 

 

起立性調節障害かな? と思ったら

 

保健室の子供

 

起立性調節障害の治療は、主に児童精神科・小児科・心療内科で行われます。薬剤での治療には血圧を安定させるための内服薬や、めまいなどの症状に合わせた漢方薬も併用することもあります。

 

また、時間をかけて本人と家族の心理ストレスを把握し、それを軽減するような心理療法も行います。症状が軽くなるには6カ月から12カ月という比較的長い時間を要する病気です。

 

治療において重要なことは、患者さんに自己肯定感を持たせること、そして家族や学校がサポーターになってくれているという安心感を持たせることです。学校の養護教諭に病気についてよく理解してもらい、医療機関・家族・学校での連携を深め、じっくりと付き合っていくことが大切です。

 

 

周囲の人がしてあげられるケアとは?

娘を応援する母親

 

周囲の人ができるケアという観点では、朝の倦怠感・立ちくらみなどの症状をただの「怠け癖」と決めつけてしまわないことが重要です。

 

学校でも、朝起きられず不登校などの状況になってしまっていても、焦らずに見守ることが重要です。この症状を通して家族や学校の友人との関係が悪くなってしまわないようにケアすることが必要です。

 

根性が足りないなどと叱責したり、無理矢理起こすなどの対処をすると症状は悪化してしまいます。起立性調節障害は体質や自律神経による身体の疾患であり、精神論だけで解決できるものではないと周囲が理解してあげることが重要です。

 

 

最後に武井先生から一言

娘を起す母親

 

起立性調節障害への理解は、見守る家族、学校においても不十分であることが多いです。医療機関でも、テーラーメイドのカウンセリングを含めた長期的な治療に対応できるところは少ないのが現状です。

 

まずは、本人も家族も、これは怠けでいるわけではなく起立性調節障害という病気なのだと理解することが大切です。そして、しっかりと時間をかけて体質改善を行っていこう、という心構えで症状とうまく付き合っていきましょう。

プロフィール

監修:医師 武井 智昭
慶応義塾大学医学部で小児科研修を修了したのち、 東京都・神奈川県内での地域中核病院・クリニックを経て、現在、高座渋谷つばさクリニック 内科・小児科・アレルギー科院長。 0歳のお産から100歳までの1世紀を診療するプライマリケア医師。