だんだんと寒くなり、風邪をひきやすいシーズンになってきましたね。
風邪をひくと、ついつい「風邪は薬で治してしまおう」と思う方もいるのではないでしょうか?
今回は、近年問題になっている風邪に対する抗菌薬の使用について、医師に解説していただきました。
そもそも風邪の主な原因は?
風邪の原因ウイルスには多くの種類があり、コロナウイルス・RSウイルス・アデノウイルスなどが挙げられます。それぞれのウイルスの中には、さらにタイプが微妙に異なる仲間がいます。
たとえば、同じアデノウイルスでも、症状が強いタイプもいれば弱いタイプもいるのです。*1
*1 風邪とは何かという定義ははっきりしていません。そのため、ここでは風邪を以下のようなものとして説明しています。
「基本的にウイルスが原因で起こる。咳・痰・鼻水・鼻づまりなど、のどや鼻の症状がある場合。熱はない、もしくは38.5度くらいまでの熱がある場合。関節痛・筋肉痛・激しい頭痛などの全身の症状がない場合。」
抗菌薬は風邪には効かない?
抗生物質・抗生剤とも呼ばれる抗菌薬は、ウイルスではなく細菌に効くように作られています。
風邪の原因は基本的にウイルスですが、ウイルスと細菌は生物としての仕組みが全く異なります。そのため、抗菌薬はウイルスには効かず、多くの風邪にとって意味のないものとなってしまいます。
風邪に特効薬的な薬はないものの、多くの抗ウイルス薬が開発中ではあります。しかし、実用化まで至っている抗ウイルス薬はごくわずかです。
なぜ効かないのに処方されてきたの?
風邪の主な原因はウイルスですが、風邪で荒れた粘膜に細菌がつく場合があり、そういった時に抗菌薬が処方されることがあります。
また、「本当にウイルスが原因で起こっている症状なのか」「細菌が悪さをしている部分は全くないのか」ということを区別するのは非常に難しいことです。
そのため、「細菌がいるかもしれない」「これから細菌がつくかもしれない」という理由で、風邪でも抗菌薬が使用されてきた歴史があります。
その中で、患者さんにとっても「風邪になったら抗菌薬を使ったほうが早く治る、重症化を防げる」ということが定着してしまったのだと考えられます。
抗菌薬を使用するデメリット
体内の良い菌まで殺してしまう
抗菌薬を使いすぎると、悪さをする菌だけでなく体内の善玉菌も殺してしまいます。善玉菌を殺してしまうことで体にさまざまな影響が出る場合があります。
たとえば、腸内の善玉菌が殺されることで下痢が起こったり、膣内の善玉菌が減ることで膣カンジダ症になったりすることが有名です。
その他にも、腸内環境の乱れや皮膚の常在菌の変化は、免疫系や精神状態まで関与してくる可能性があることもわかってきました。
「薬剤耐性菌」が増えてしまう
抗菌薬を乱用したり中途半端に使ったりすると、抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が増えてしまう問題があります。
MRSA(メチシリンという薬が効かない黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシンという薬が効かない腸球菌)、多剤耐性淋菌、スーパーバグなどという言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。
このような「薬剤耐性菌」が増えると、病気やけがで体力が弱った人、高齢者、子ども、妊婦など、抵抗力が低い人に細菌感染が起こったときに使える薬がなくなり、命を落とす人が出てくる可能性があります。
2013年の時点で、すでに年間70万人の方が「薬剤耐性菌」のために亡くなっています*2。このままでは2050年には、がんによる死亡者数を超えるのではないかといわれています。
抗菌薬は適切に使用を!
検査で細菌が検出された場合に必ず抗菌薬が必要かというと、そうとも限りません。細菌がいても、人間の体には免疫力や自浄作用があります。
特に、子どもの中耳炎や副鼻腔炎で細菌の関与が疑われた場合でも、程度によってはすぐに抗菌薬は必要なく、自然経過を見ることもあります。
また、体内に菌がいても、特に悪さはしない常在菌であるという場合もあります。抗菌薬は必要な場合にのみ使用することが大切です。
早く風邪を治すコツは?
早く風邪を治すためには、以下のことが重要です。
・十分に睡眠をとる
・十分に水分補給をする
・栄養のある食事をとる
・部屋の加湿やマスクなどで鼻やのどの周囲をケアする
まずは休養が大切
鼻水が出れば鼻水止め、咳が出れば咳止めなど、抗菌薬を使わなくても風邪の症状を和らげる薬を使うことがあると思います。
しかし、このような薬を使った場合と使わなかった場合で、治るまでの時間に差がなかったという研究も出てきています。
風邪の場合は、薬に頼るばかりではなく、まずは十分に休養することを心がけましょう。
最後に医師から一言
日本では、病院に行くと薬をもらうのが当然という意識があります。また、医師によっては「お薬出しておきますね」と言わなければ、診察が終わらないような意識があると思います。
しかし、医師側も抗菌薬を処方する場合は一律に同じ薬を出すのではなく、どのような菌が悪さをしているのか見極め、それに合った薬を出すことが大切なのではないかと思います。
誰にとっても身近な風邪だからこそ、誰もが風邪への認識を改めていく必要があるのかもしれません。