毎年4月23日は「ビール(地ビール)の日」とされています。4月に入り、お花見や歓送迎会などでお酒を飲む機会が増えた、という方も多いのではないでしょうか?

 

飲酒量が増えると気になるのがお酒に関連する病気。長年の飲酒は「がん」のリスクになるといわれています。

 

飲酒ががんに影響するということはなんとなく知っていても、どうしてそうなるのか、どのようなガンになりやすいのかは知らないのでは?


今回は気になるお酒とがんの関係について、医師の吉田先生に解説していただきました。

 

目次

 

飲酒すると、どんながんになりやすくなる?

お腹を押さえる女性

 

WHO(世界保健機関)によれば、飲酒は、口腔がん喉頭がん咽頭がん食道がん肝臓がん大腸がん(結腸がん・直腸がん)、女性の乳がんの要因とされています。*1

 

他にも、胃がん膵臓がん肺腺がん膀胱がん皮膚がんと飲酒の関連性も報告されており、幅広く影響が及ぶことがわかっています。*2

厚生労働省(2005年)によれば、日本人男性に発生したがんの13%が、1週あたり純アルコール300g(ビール7.5L相当)以上の摂取によって起こったもの、といわれています。*1

 

 

飲酒ががんを引き起こすメカニズム

二日酔いに悩む女性 

アルコールは、体内でADHという酵素によりアセトアルデヒドに分解され、その後、別のALDHという酵素によって酢酸まで分解されます。

 

しかし、これらの酵素の働きが弱い場合、アルコールやアセトアルデヒドがいろいろな臓器の細胞に蓄積し、細胞の遺伝子変異を生じさせることにより、正常な細胞のがん化を促します。

 

口腔がん、咽頭がん、食道がんの発生に、このメカニズムが関わっていることは、以前より知られています。

 

お酒に強い弱いって関係あるの?

酵素ALDHの働きが弱いタイプの人は、飲酒で顔が赤くなり、二日酔いを起こしやすいです。また、東アジア人の男性における調査では、飲酒で顔が赤くなる人では、食道がんのリスクが高いという結果も得られています。*5

 

日本人は酵素の働きが弱い

日本人では、ALDHの働きが弱いタイプは40%にものぼります。飲酒で顔が赤くなりやすい人は、がん予防においては特に注意する必要がありそうです。*1

そして近年、膀胱がんについてもADHやALDHの働きの弱さとの関連性が指摘されたほか、これらの働きが弱いタイプの人が1週間に純アルコール150g(ビール3.8L相当)以上を摂取した場合、胃がんのリスクをも上昇させることがわかってきました。*2*3

 

がんになりやすいお酒の種類

また、アセトアルデヒドには、遺伝子変異のみならず、紫外線の発がん性を助長する作用もあると考えられており、とりわけ白ワインと蒸留酒が皮膚がんの一種「基底細胞がん」を生じやすくする可能性があります。*4



女性はとくに乳がんにも注意が必要?

乳がんピンクリボン

 

乳がんはとくに注意

飲酒に関して、乳がんについてはより注意する必要があります。1日あたり純アルコール10g(ビール250mL相当)の摂取が増えるごとに、発症リスクは7-10%ずつ高まります。*6

 

乳腺はアルコールやアセトアルデヒドに敏感な組織であり、酵素ADHやALDHの働きの程度にかかわらず、飲酒が発症リスクを高めるのです。

 

また、飲酒により乳がん細胞が成長しやすい地盤を乳腺周辺につくったり、血中の女性ホルモン量が増加し女性ホルモンが大きく関わるタイプの乳がんの成長を促すというメカニズムもわかってきました。*6

 

 

飲酒によるがんのリスクを下げるために

お酒の場での若者

 

若いうちから飲酒はほどほどに

直腸がんは40代以上の発症がほとんどを占めますが、20代での飲酒量が多いほど将来の発症リスクが高まります。*7

 

乳がんでも、初めての妊娠までの飲酒量が多いほど将来の発症リスクが高まります。乳がん予防の観点からは、適量とは「飲酒しない」ことであると考えていたほうがよいかもしれません。*8

 

また乳がんにおいては、飲酒は再発リスクも高めますので、一度罹患した場合は飲酒は極力避けたほうがよいでしょう。*6

 

喫煙や野菜不足はNG

口腔がん、咽頭がん、食道がんについては、喫煙や野菜の摂取不足があると、より飲酒の影響が及びやすいので、気を付けるようにしください。

 


最後に吉田先生から一言

過度な飲酒が健康を害することはよく知られています。肝機能障害が指摘された際、医師から適量飲酒を心がけるよう指導された方も多いのではないでしょうか。

 

しかし、飲酒の影響は臓器や性別によって異なり、がんの中にも飲酒との関連が指摘されていないものから、適量飲酒でさえ発症リスクが上昇するものまであります。

 

このコラムでは、飲酒と関連のあるがんを取り上げ、飲酒ががんを引き起こすメカニズムや、飲酒という観点からの発症予防について解説していますので、よく読み、みなさんそれぞれ注意するべき点がないか考えてみてください。

 

参考文献

*1アルコールと癌(がん)e-ヘルスネット

*2 Hidaka, A., Sasazuki, S., Matsuo, K., Ito, H., Sawada, N., Shimazu, T., . . . Tsugane, S. (2014). Genetic polymorphisms of ADH1B, ADH1C and ALDH2, alcohol consumption, and the risk of gastric cancer: The Japan Public Health Center-based prospective study. Carcinogenesis, 36(2), 223-231. 

*3 Masaoka, H., Ito, H., Soga, N., Hosono, N., Oze, I., Watanabe, M., . . . Matsuo, K. (2016). Aldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2) and alcohol dehydrogenase 1B (ADH1B) polymorphisms exacerbate bladder cancer risk associated with alcohol drinking: Gene-environment interaction. Carcinogenesis, 37(6), 583-588.

*4 Wu, S., Li, W., Qureshi, A. A., & Cho, E. (2015). Alcohol consumption and risk of cutaneous basal cell carcinoma in women and men: 3 prospective cohort studies. The American Journal of Clinical Nutrition, 102(5), 1158-1166.

*5 Zhang, J., Zhang, S., Song, Y., Ma, G., Meng, Y., Ye, Z., … Liu, M. (2017). Facial flushing after alcohol consumption and the risk of cancer: A meta-analysis. Medicine, 96(13), e6506.

*6 Liu, Y., Nguyen, N., & Colditz, G. A. (2015). Links between alcohol consumption and breast cancer: a look at the evidence. Women’s Health (London, England), 11(1), 65–77. 

*7 Jayasekara, H., Macinnis, R. J., Williamson, E. J., Hodge, A. M., Clendenning, M., Rosty, C., . . . English, D. R. (2016). Lifetime alcohol intake is associated with an increased risk ofKRAS andBRAF-/KRAS- but notBRAF colorectal cancer. International Journal of Cancer, 140(7), 1485-1493. 

*8 Jayasekara, H., Macinnis, R. J., Hodge, A. M., Room, R., Milne, R. L., Hopper, J. L., . . . English, D. R. (2016). Is breast cancer risk associated with alcohol intake before first full-term pregnancy? Cancer Causes & Control, 27(9), 1167-1174. 

プロフィール

監修:医師 吉田 菜穂子