小児がんの傾向、特徴


子どもにも大人と同様、体の様々な部位にがんが起こり得ますが、どこの臓器にがんが多いか、同じ臓器でもどのような種類のがんが多いかなど、大人とは異なる部分があります。

臓器を作る元となる細胞のがん化


胎児のときに、臓器を作るもととなった大元の細胞、植物でいうと芽にあたる未熟な細胞ががん化したと考えられる場合が多く、神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、網膜芽細胞腫などという名前が付いています。

これらの腫瘍は生後1年までに多く見られるため、生まれてからがんになったというより、生まれる前からがんの性質を持っていたと考えられます。

先天奇形や遺伝子・染色体の異常


生まれる前からあった異常が、がんの原因であることが多いとされています。

例えば、停留精巣という精巣がお腹の中にとどまっている奇形があると、精巣の腫瘍になりやすく、そのなりやすさは精巣をお腹の中から精巣に移動する手術を行った後でも変わらないとされています。

また、ダウン症ターナー症候群のような染色体の異常があると、様々ながんも発生しやすいです。

つまり、大人のがんに比べ、生活習慣や環境によって起こるがんは非常に少なく、生まれつきの要素により決まっている部分が大きいということになります。

そしてがんだけでなく、他の先天異常や疾患にも合わせて苦しめられるという状況になります。

大人のがんとの違い


大人は、増殖や細胞分裂の機会が多い組織ほど、遺伝子のミスコピーが起こりやすくがん化しやすいため、皮膚や腸の細胞など、頻繁に入れ替わる細胞のがんが多い傾向にあります。

子どもの場合はあまり増殖しない骨・筋肉などから発生する骨肉腫横紋筋肉腫の割合がより高くなっています。

子どもに特徴的ながん1:神経芽腫


神経芽腫とは


私たちの体には、意識しなくても24時間臓器を動かすための自律神経が張り巡らされています。

自律神経のうち交感神経は、胎児期に神経堤と呼ばれる体の部分からできますが、この神経堤の細胞ががんになるのが神経芽腫です。

交感神経は、副腎や背中・胸・首の体の後ろのほうを通っていますので、そのあたりに固まりを作ります。

症状


副腎に固まりを作ると、お腹を触った時にしこりを感じます。背中・胸・首の神経に固まりができると、神経が正常に作用しなくなり、まぶたが上がらない、歩けないなどの様々な症状が現れます。

また、このがんは転移しやすく、目の奥に転移して目が前に出てきたり、肝臓に転移して肝臓が腫れたり、骨髄に転移して貧血になったりします。

検査、治療内容


CTやMRIなど画像検査を行い、血液検査や尿検査でがんが発する酵素を計測します。

診断がついたら手術で固まりを取り、N-mycという遺伝子がどの程度多いかを確認し、それに応じて化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療、造血幹細胞移植を行いますが、一般的に根治には難渋するがんと言えます。

子どもに特徴的ながん2:腎芽腫


腎芽腫(ウイルムス腫瘍)とは


胎児期に腎臓や精巣、尿道など泌尿器系の臓器のもととなる細胞ががん化したものです。停留精巣、尿道下裂馬蹄腎などの奇形を合併していることが多く、虹彩欠損や精神遅滞を合併するとWAGR症候群と呼ばれます。

11番染色体の異常で起こるとされています。

症状


お腹が膨れて飛び出しているというものが最も多く、そのほか発熱腹痛便秘、嘔吐、食欲不振が現れます。

検査、治療内容


CTやMRIといった画像検査を行います。手術を行い、術後に抗がん剤治療や放射線治療を行います。

小児がん特有の問題点について


治療の副作用


治療法の進歩に伴い、小児がんの生存率は向上していますが、その反面、治療の副作用を抱えながら、その後の人生を生きなければならない人が増えています。

■ 骨髄移植
白血病治療の際、骨髄移植などの造血幹細胞移植を受けると、移植した細胞が自分の体を異物として攻撃するというGVHD(Graft versus host disease, 移植片対宿主病)が起こります。

これにより皮膚や粘膜、肺が障害され、皮膚のただれや粘膜のひきつれ、呼吸困難に悩まされる方がおられます。GVHDを抑制するために使用したステロイド薬の副作用のため、目の圧が上がる緑内障になることもあります。

■ 放射線治療
また、放射線治療を脳に行うと、体の成長や生殖機能の成長に必要なホルモンを分泌する部分が障害を受け、身長が伸びない、不妊といった悩みが生じることがあります。

カルテの記録が残っていない


年齢が若いころにがんの治療を受け、完治したため定期受診もしていないという状況だと、本人は治療内容について覚えておらず、カルテの記録も残っていないこともあります。

大人になってから体の不調を感じても、それが幼少期のがん治療と関係しているとは分からず、診断や治療に難渋することもあります。

がんが治った子どもたちのその後をどうやって見守っていくかについては、まだ決まった体制ができていません。

最後に医師から一言


小児がんは大人とは違う特徴があり、保護者にとってはどのような病気か全く知識がないことが多いです。

治療には長期間の治療を要する場合が多く、家族の負担は大きいのが現状ですが、治療成績は年々改善しています。

(監修:Doctors Me 医師)