ついお酒を飲み過ぎてしまったときは急性アルコール中毒にならないように注意しましょう。

今回は、急性アルコール中毒のメカニズムから、応急処置、急性アルコール中毒にならないお酒の飲み方を医師の建部先生に聞いてみました。

急性アルコール中毒とは


お酒による酔いは2種類ある


「お酒を飲んで酔う」ということには次の2つの種類があります。

1. お酒に含まれるアルコールが脳に作用することで起こるもの
2. 体内に入ったアルコールが分解されてできた物質によって引き起こされるもの(いわゆる二日酔い

急性アルコール中毒は1の、脳に作用することで起こるものです。

お酒を飲んで急性アルコール中毒になるまで


短い時間に多量の飲酒により、体内では血液中のアルコール濃度が急上昇し、中毒状態を引き起こします。

アルコールは脳を麻痺させる性質を持っているため、体内に取り込まれると麻痺は最終的に脳の深部にまで及びます。

そして麻痺が脳幹部にまで達すると、脳の中枢神経までもを麻痺させてしまい、呼吸や心臓の働きを停止させて死に至ってしまいます。

お酒は飲み始めてから酔いがまわるまでは比較的時間がかかることが多いのですが、短時間で昏睡から死に至ることもあるのです。

また、いわゆる一気飲みをすると、当然ながら脳の麻痺も一気に進んでしまうことになり得ます。

急性アルコール中毒になる酒量


動物実験の結果では、血中アルコール濃度が0.4%を超えると、2時間以内に半数が死亡します。

アルコール健康医学協会によると、血中アルコール濃度が0.16%を超すあたりに急性アルコール中毒が疑われる状態になってきます。

体重70kgの人の場合、血中アルコール濃度が0.16%を超えてしまう、1時間以内に摂取するお酒の量を換算すると以下のような酒量となります。

■ ビール(アルコール5%):2500ml以上
■ 日本酒(アルコール15%):900ml以上
■ ワイン(アルコール14%):893ml以上
■ 焼酎(アルコール25%):500ml以上 (※ストレートで飲んだ場合)
■ ウイスキー(アルコール40%):300ml以上 (※水割りダブル45ml換算)

《参照》
アルコール健康医学協会

重症度 別急性アルコール中毒の症状

軽度


・気が大きくなる
・大声であたりかまわず激しくわめく
・怒りっぽくなる
・立てばふらつく

中程度


・足を左右に踏み違えてフラフラ歩く
・何度も同じことをしゃべる
・呼吸が荒くなる
吐き気、嘔吐がおこる

重度


・まともに立てない
・意識がはっきりしない
・言語がめちゃめちゃになる

危険


・ゆり動かしても起きない
・つねっても痛み刺激に全く反応しない
・大小便はたれ流しになる
・呼吸はゆっくりで深い
・死亡

急性アルコール中毒の応急処置


1. 意識レベルを確認


急性アルコール中毒になった場合、お酒を飲み過ぎた人が自力で対処することは不可能なので、周囲の方がお酒を飲んでいてうずくまってしまっている状態の方を見つけたら、まずはその方に対し意識レベルの確認が必要です。

2. 横に寝かせる


呼びかけて応答する、はっきり返事をする程度ならば、横になれるスペースに運んで仰向けやうつ伏せではなく、腕などを枕にして体を横にする「横向き寝(回復体位)」をとらせ、寒気を訴えるなら毛布などをかけて体温低下を防ぎます。

3. 酒量、症状を確認


その間、どのくらいのお酒をどのくらいの時間で飲んでしまったのか?と、急性アルコール中毒の症状を参考にどのくらいひどいのか?を大雑把に割り出しましょう。

4. 様子を見て判断


30分程度様子を見て、その中で自力で歩いてトイレへ行ける、起きて水分を自力で摂取できるようならば、ひとまず大きな問題はないと言えるでしょう。

■ 注意すべきは嘔吐と転倒
急性アルコール中毒では、血中のアルコール濃度が上昇すると同時に、アルコールが分解してできるアセトアルデヒドの上昇も生じていて、このアセトアルデヒドは吐き気・嘔吐をもたらす作用があります。

意識混濁の状態であっても嘔吐することはありますので、吐物が喉に詰まらないように注意します。

自力で起き上がりトイレ等に移動しようとしてふらついて転倒しそうならば介助が必要です。

急性アルコール中毒における救急車を呼ぶ基準


飲酒してだんだん呼びかけへの応答をしなくなった場合、全てのケースで即刻、救急車を要請し救急病院に搬送するべきです。

万が一にも自発呼吸をしていない、脈が触れないなど場合は気道を確保した上で心肺蘇生を行いつつすぐに救急車を呼ぶことになります。

この他にも以下のような症状が現われた場合はすぐに救急車を要請するべきでしょう。

救急車を呼ぶべき症状


・急に意識を失って転倒する
・手足が痙攣している
・大きないびきをかいている
・口から泡を吹いて倒れている
・体が震えるといった強い寒気を感じている

病院での急性アルコール中毒の治療法


救急搬送されて時点で手早く意識レベルならびに心肺機能の状態を確認します。心肺停止またはそれに準ずる重篤な状態ならば直ちに救急外来にて蘇生処置を行います。

意識障害については急性アルコール中毒以外の原因を検査で確認してゆきます。

検査


・頭部CT検査
・血液検査
・診察結果によっては各部のレントゲン検査

主に急性アルコール中毒以外の意識障害の原因を検査してゆきます。

また、アルコールの脳への影響による意識レベル低下や、運動失調により転倒し頭部外傷や骨折を呈していることがあります。

頭部外傷は転倒時の切り傷やタンコブ(頭血腫)程度ならばよいのですが、外傷性頭蓋内出血や頭蓋骨骨折を生じていることもあるのです。

他にもアルコールの作用による脱水や血圧低下による脳梗塞糖尿病を背景とした重度の低血糖や高血糖、高アンモニア血症など肝障害の悪化についてもチェックします。

また、四肢の変形や腫脹があれば、その部分の骨折の有無をレントゲン検査で確認します。

治療


重症例、昏睡の場合には、まずは気道確保し心肺停止またはそれに準ずる重篤な状態ならば直ちに気管内挿管・人工呼吸ならびに昇圧剤投与・心臓マッサージ等で対応します。

血中アルコールの上昇に対しては、点滴を実施しその濃度の希釈と分解・排泄を促進させますが、稀に血液透析が必要になることもあります。

さらに嘔吐による窒息に注意をし、必要に応じ制吐剤を注射したりもし、その他程度に応じた対症療法を行います。


病状に応じてその治療に必要な点滴、制吐剤、昇圧剤、鎮静剤などになります。

入院する場合はどんな症状?


救急外来での点滴などの応急加療にて意識レベルの改善が見られない場合、または呼吸・脈拍・体温について明らかな医学上の問題を認める場合です。

血中アルコール濃度を下げる注射剤等は存在しないので対症療法を継続するための入院で、入院後はそのまま経過観察になります。

入院後、12~24時間程度経過観察をし、診察やその他の検査で異常がないことが確認できれば退院になります。

急性アルコール中毒で考えられる合併症や後遺症


合併症


・嘔吐に伴う息窒呼吸
・呼吸状態の悪化
・重度の脱水
・低体温
不整脈
・低血糖
・死亡

後遺症


臨床的に急性アルコール中毒でも、心肺停止になっていない場合は後遺症はほとんど残りません。時として深刻な後遺症に至らない肝臓や腎臓に障害を生じることはあります。

しかし、急性アルコール中毒によって長時間にわたり心肺停止が生じると、その分、脳へも酸素が供給されず脳に様々な深刻なダメージを残してしまいます。

これをまとめて高次脳機能障害といい、下記のどの症状が出てしまうのかはわかりませんが、少なくともその程度は心肺停止の時間の長さに関係していると言えます。

高次脳機能障害


■ 記憶障害
自分自身の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまいます。

■ 社会行動障害
状況にあわせた行動や感情を、コントロールすることが上手く出来なくなります。

■ 注意障害
周囲から受ける注意が必要ことに意識を向けたり、意識を集中することが出来なくなる障害です。

■ 遂行機能障害
行動する際の計画、問題解決、推察することや、自分の行動を客観的に評価、分析ができなくなる症状です。

■ 失行症
運動器は正常にもかかわらず身につけた一連の動作を行う機能が低下する症状をいいます。

■ 失認症
見る、聞く、触るといった感覚を介して対象とするものを認知することができないという症状をいいます。

■ 失語症
言語障害の一つで、脳の言語中枢が何らかの損傷を受けることによって、言語を操る能力に障害が残っている症状をいいます。

急性アルコール中毒にならないお酒の飲み方

飲酒によって「酔う」のはアルコールですが、お酒の種類によってアルコール度数は変わってきます。身体や精神への影響は飲酒量ではなく、摂取した純アルコール量に依存します。

血中アルコール濃度:0.1%以内ならば、多くの飲酒習慣のある人が急性アルコール中毒にならずに「ほろ酔い」で楽しくお酒を飲むことができます。

翌朝に酒を残さないためには次の簡易計算式で、飲むお酒の種類を1種類に限定した場合の限界量を知ることができます。

<簡易計算式>
アルコールの血中濃度(%) = 飲酒量(ml)× アルコール度数(%)÷体重(kg) ÷ 833

これに基づいて大雑把に計算すると1日あたりの酒量は以下のようになります。

■ ビール(アルコール5%):1000mlまで
■ 日本酒(アルコール15%):333mlまで
■ ワイン(アルコール12%):416mlまで

上記の量を超えないことが急性アルコール中毒にならずに健康を維持し得ると考えられます。

最後に建部先生から一言

アルコールの代謝能力は体質・体調・性別・年齢などによって個人差があります。

お酒を楽しく飲んで、頭痛や吐き気などの症状がなくすっきりと次の日を迎えましょう。

プロフィール

監修:医師 建部 雄氏
京都市生まれ。社会人を経て医師を志す。2001年、昭和大学医学部医学科卒業。 卒後、東京都内の大規模総合病院にて救急科の経験を積む。 その後、阪神淡路大震災において内科医が避難所等で切実に必要とされていた事実を知り、より多くより幅広く患者さんに対応できる医師を目指して総合内科へ転向を決意。 急性期病院・クリニックの勤務を経て、最も身近な医師としての研鑽を積んでいる。 現在は、横浜市内の総合病院に勤務中。週末を中心に休日夜間の非常勤先病院 救急外来勤務をほぼ趣味としており、失敗も成功も含めて経験は豊富。