お酒を飲む機会が多いシーズンは特に、つい飲みすぎて嘔吐してしまった…なんて経験はありませんか?
一時的にすっきりする気がして、自ら吐こうとする人もいるようですが、お酒を飲んで吐くという行為、実はとても危険な行為のようです。
今回は、飲酒による嘔吐から引き起こされることもある「マロリー・ワイス症候群」と「特発性食道破裂」という2つの症状について、医師の井上先生に解説していただきました。
飲酒後に嘔吐してしまう理由
まず、嘔吐という行動は、「なにかを体内から出さなければならない」と体が反応したサインとして、必要な行動だと考えてください。
飲酒後は、血液中のアセトアルデヒドの濃度が上昇することで、脳から嘔吐するようにシグナルが出るのです。
マロリー・ワイス症候群とは
激しい嘔吐を何度も繰り返すことで、食道に過大な圧力がかかり、食道の粘膜が裂けて出血する疾患です。
マロリー・ワイス症候群の症状
嘔吐した後の吐血や、黒い便が出ることが特徴です。また、食道の粘膜が裂けることで、みぞおちあたりが痛む場合もあります。
マロリー・ワイス症候群になりやすい人の特徴
マロリー・ワイス症候群になる人は、圧倒的に男性が多いです。また、以下のような「嘔吐しやすい人」もマロリー・ワイス症候群になりやすいと考えられます。
・お酒に弱い人
・妊娠中の人(つわりでの嘔吐が多いため、妊婦さんは皆リスクを抱えています)
・船酔いしやすい人
・食中毒などで嘔吐症状が激しい人
マロリー・ワイス症候群の治療法
・専門科目
最初は内科受診になります。内視鏡検査などが必要なので、内科の中でも消化器内科での専門的な治療となります。
・治療内容
吐血があるため大病のように思えますが、主に吐血は一度きりです。そのため治療としては、経過観察で終わる場合も多いです。ただし、胃カメラで出血源を確認したときに大量の出血が継続しているようであれば、止血処置を行います。
粘膜の裂けた程度がひどい場合は絶食の処置となり、入院治療も考慮します。その際は、脱水状態にならないように点滴などが必要になります。
・薬
特効薬はなく、粘膜修復などの目的で胃薬を処方することもありますが、上記のように経過観察などの処置が一般的です。
特発性食道破裂とは
マロリー・ワイス症候群と同様に、嘔吐などで食道に過大な圧力がかかり、破裂することがあります。また、事故などによって外力を受けることが原因になる場合もあります。
特発性食道破裂の症状
激しい胸痛や腹痛があります。また、呼吸困難で顔面蒼白になり、冷や汗も出ます。
特発性食道破裂になる可能性がある場面
・お酒が弱く、何度も吐くことがあるとき
・ボタン電池などを誤って飲み込んでしまったとき
・放射線治療のあと
特発性食道破裂の治療法
緊急で破裂して穴があいたところを縫合する手術になります。感染症も併発しやすいので、抗生剤を使用したり膿を排出する手技を用いることもあります。
嘔吐後の2つの症状、避けるための対策は?
自分でできることとしては、激しい嘔吐がないよう予防するのが一番です。特に飲酒による嘔吐は、自分で飲酒の限界が分かっている場合が多いため、無理をして飲酒しないことが一番です。
ただし、吐き気がきたときは、体からのSOSのサインでもあるので、嘔吐することを無理に我慢してもいけません。
最後に井上先生から一言
「マロリー・ワイス症候群」と「特発性食道破裂」は原因が似ている疾患ですが、重篤度と緊急度が全く違います。ただし、最初は吐血など同じような症状から始まるので、検査するまでどちらの疾患か判断に迷うこともあります。
自分の限界を超えての飲酒は、必ず嘔吐反射を誘発します。その結果、吐血や胸痛が認められるときは、すぐに治療が必要な可能性がありますので、すぐに医療機関にかかりましょう。
プロフィール
- 監修:医師 井上 智介
- 島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。