定年後、夫が常に家にいることが妻のストレスとなり、体調不良につながってしまう病気「主人在宅ストレス症候群」ーー

 

なぜ、定年後に一緒に過ごしてきた夫に対して、ストレスを抱えるようになってしまうのでしょうか。

 

最近では、「夫とは同じ墓に入りたくない」と本気で思っている方も少なくないようですが、熟年離婚が増えていることから、夫の存在にストレスを感じている妻もまた増えているのかもしれません。

 

真相を探るべく、主人在宅ストレス症候群について、精神科の井上智介先生に解説していただきました。

 

目次

 

主人在宅ストレス症候群ってどんなもの? 

夫がストレスとなる夫婦

 

主人在宅ストレス症候群とは、黒川心理研究所所長の黒川順夫先生によって命名された病名です。具体的には、夫が家にいることでイライラしたり気分が落ち込むなどの症状があります。

 

さらには高血圧胃潰瘍喘息などを引き起こす原因となり妻を困らせる疾患です。ただし、保険病名には登録されていません。

 

 

なぜ、定年後の夫の在宅にストレスを感じてしまうのか 

定年後に妻にストレスを与える夫

 

夫が定年退職で家にいると、妻と行動を共にしようとすることが多く、例えば妻が買い物に行く際に「ワシも行く」と言い出すのです。一緒に行くだけならばいいのですが、妻の買い物に「これは贅沢だ」とケチをつけたり、自分の買い物が終わると「疲れたから休憩する」など妻のペースを乱すのです。

 

今まで妻は、自分のペースでできていた買い物や、友人との遊びも夫が家にいることで行動を監視されているような感覚になり、生活に閉塞感を覚えてしまいます。

 

また夫が定年になってからは、昼食を家で食べることになります。夫は昼食作りを手伝うわけでもなく、11時くらいにはリビングに座って「今日の昼食は何だ?」と毎日繰り返すのです。これも妻のプレッシャーになってきます。

 

これらのように、夫が在宅していると妻が今までのペースを保つことができなくなり、今までなかった見えないプレッシャーが与えられることで、多大なストレスを感じてしまうのです。

 

 

夫によるストレスで引き起こされる症状とは 

夫へのストレスで体調が悪くなる妻

 

ストレスを感じると、イライラしたり意味もなくソワソワしたり、気分が落ち込んだりすることがあります。さらに頭痛めまい吐き気動悸などの症状がひどくなってきます。

 

内科や精神科などを受診して、自律神経失調症更年期障害などの診断名がつくことで治療開始となりますが、治療中でも家に帰ればストレスの源となる夫がいるので、なかなか病状が改善しないことが多いです。

 

 

定年後、妻にストレスを抱かせやすい夫の特徴は 

定年後に妻にストレスを与えやすい夫

 

定年までは妻の行動に関心がなかったにも関わらず、定年後に妻と行動を共にしようとする夫にはいくつか特徴があります。

 

□近所の人への人当たりは良いが、家では無口だ。

□夫が家事をすることは、あくまでも「手伝い」と感じている

□妻の行動や予定をよくチェックしている

□妻にはつい強く当たってしまう

□妻の家事には手を出さないが、口は良く出す

□妻子を養ってきた強い自負がある

 

これらの条件に3つ以上当てはまるようならば、注意が必要です。

 

 

主人在宅ストレス症候群を予防するためには 

主人在宅ストレス症候群について考える夫婦

 

こうした症状を予防するためには、何よりも夫婦の会話が大切です。男性は職人気質なところがあり、言葉に出さなくても分かり合うことができると考えている方も多いですが、女性はそう思っていない方も多いのです。やはり、会話がなければ気持ちを伝えることは難しいです。

 

一般的には、女性の方が聞き役に向いており、男性は聞き役が苦手の人が多いです。男性は、すぐに解決法を考えてしまいがちですが、聞き役はただ「聞く」だけでよく、答えを出す必要がないときも多いのです。この技法を身につけるだけでも、妻のストレスは少し解消されるでしょう。

 

 

最後に井上先生から一言

夫婦で会話してストレスを緩和する夫婦

 

主人在宅ストレス症候群は、医学的な保険病名もついておらず、診断に至ることは難しいかもしれません。しかし、様々な治療や検査を行っても症状が全く改善されないときは、この病名を思い浮かべてもらえればと思います。そして思い当たる節があるのならば、一度夫婦で時間をとってゆっくりと話しあってみてください。

プロフィール

監修:医師 井上 智介
島根大学を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び臨床研修を修了する。 平成26年からは精神科を中心とした病院にて様々な患者さんと向き合い、その傍らで一部上場企業の産業医としても勤務している。