受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案が7月12日に参議院厚生労働委員会で可決され、今国会期間中に成立する見通しです。*

 

2年後にオリンピック開催を控え、受動喫煙対策に関心が高まっていますが、受動喫煙はそもそも健康にどのような影響があるのでしょうか?

 

今回はとくに、妊婦さんや子どもへの受動喫煙の影響について、小児科医の武井智昭先生に解説していただきました。
 

 

受動喫煙とは?

他人のタバコが気になる女性

 

タバコの煙は、タバコを口にくわえて直に吸いこむ「主流煙」と、火がついた先からもくもくと発生する「副流煙」に分かれます。タバコを吸う人は前者、同じ空間にいる方は後者の「副流煙」を吸うことになります。

 

この副流煙を自分の意思でなく周囲の環境により吸い込んでしまう状態を「受動喫煙」といいます。

 

受動喫煙が続くと、肺がんや急性の脳出血気管支喘息慢性閉塞性肺疾患(COPD)脳卒中狭心症心筋梗塞のリスクが高まるといわれ、子どもや妊婦にも影響がみられることがわかっており、現在、受動喫煙に対して社会全体で防ごうという動きがあります。

 

 

タバコの煙はなぜ危険?

たばこの煙

 

タバコの煙が危険である理由ですが、副流煙は主流煙に比べるとニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍含まれています。

 

ニコチンは依存性が高い物質で、血管を収縮させる作用があるため頭痛肩こりの原因となるだけでなく、心筋梗塞、狭心症のリスクを上昇させます。タールには発がん物質が多く含まれ咽頭がん、肺がんのリスクとなります。一酸化炭素は、息切れなど呼吸器症状が悪化します。

 

このほかにも微量でありますが、カドミウム・アセトン・トルエンなど200以上の有害物質がタバコの煙には含まれています。

 

喫煙後に歯磨きやうがい、衣服用の消臭スプレーなどの対応をしなければ、5~6時間後でもこうした化学物質の影響があるとされています。また、化学物質と同様に臭いも残っている場合があります。

 

一説には、タバコに含まれる化学物質と臭いは更に長く24時間経過しても残存することがあるとも言われており、注意が必要です。

 

 

妊娠時の受動喫煙について

喫煙する夫をもつ妊婦

 

妊娠時の受動喫煙は、母親のみならずお腹の赤ちゃんへの影響がみられます。 タバコを吸わない女性の受動喫煙は、主には家庭内での同居者(特に夫)の喫煙によるもので、その次に多いのは職場です。

 

妊娠中の受動喫煙による影響としては、お腹の胎児の発育が不良となる可能性があります。子宮内発育不全のリスクが2~3倍程度高まるといわれており、このほかにも流産・早産のリスクが高くなります。

 

 

受動喫煙の子どもへのリスク

タバコに触ろうとする赤ちゃん

 

子どもの受動喫煙による健康被害は、成人よりも深刻であるといわれています。

 

乳児期においては、父親・母親ともに喫煙者である場合、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが10倍程度まで上昇すると報告されています。

 

このほか、肺炎中耳炎などの感染症のリスクが2倍程度、気管支喘息の発症も2~3倍程度に上昇します。さらに、タバコの代謝産物であるコチニンの血中濃度が高まると、算数での計算能力や、文章の読解能力の低下がみられる傾向があります。

 

 

残留した煙による「三次喫煙」にも注意を

喫煙者が何度も出入りする場所において、残留したタバコの煙の成分を吸い込むことにより健康被害がみられることを「三次喫煙」(もしくは残留受動喫煙)といいます。

 

例えば、喫煙が繰り返されるカラオケボックス・電車の喫煙車両・自動車・ホテルなどが三次喫煙の可能性がある場所に該当します。子どもが喫煙席に行くことで、もし喫煙者がその場にいなかったとしても、三次喫煙により受動喫煙となってしまう可能性があります。

 

最後に武井先生医師から一言

タバコにNOという子ども

 

近年では、受動喫煙による健康被害に関しての意識が強まっており、条例などにおいても禁煙を推奨する動きがあります。

 

喫煙の行動は、自分の健康を害するのみならず、大切な家族、特に子どもに対して気づかないうちに健康被害を及ぼしている可能性があります。

 

このため、喫煙による様々なリスクを考えて積極的に禁煙をすすめていくことが、自分自身と家族を守るうえで重要です。医療機関でも禁煙を助ける治療もありますので、活用されてみてはいかがでしょうか。

 

 

参考資料

* 『受動喫煙法案が可決 参院厚労委』日本経済新聞

プロフィール

監修:医師 武井 智昭
慶応義塾大学医学部で小児科研修を修了したのち、 東京都・神奈川県内での地域中核病院・クリニックを経て、現在、高座渋谷つばさクリニック 内科・小児科・アレルギー科院長。 0歳のお産から100歳までの1世紀を診療するプライマリケア医師。