乳がんとは
乳がんとは、乳管や小葉などの乳房組織に発生するがんの総称です。乳がんの多くは、乳管から発生する「乳管がん」です。小葉から発生したがんは、「小葉がん」と呼ばれます。 女性のがんというイメージがありますが、男性もなる可能性のあるがんです。 乳がんにはさまざまな種類があり、タイプによって治療法は変わってきます。早期発見と一人ひとりの状態に合った適切な治療を行うことが非常に大切です。40歳以上の女性は、2年に1回乳がん検診を受けましょう。
乳がんの症状
受診の目安として、乳がんにかかった場合は以下のような自覚症状が現れることがあります。・乳房やわきの下のしこり(※自分で気づく症状としては最も多く、全体の7~8割です。)
・乳頭からの乳汁分泌
・乳房の皮膚の陥没、ひきつれ
・乳房が赤く腫れる
・乳頭や乳輪のただれ・びらん・湿疹など
少しでも乳房がおかしいなと感じた場合は、放っておかずに早急に乳腺外科を受診しましょう。
乳がんのセルフチェック
乳がんの早期発見のためには、セルフチェックも大切です。月1回ほど自分で胸を触って、しこりや異変がないか確認しましょう。
●乳がんのしこりの特徴
胸にしこりのようなものがあるからと言って、全てが乳がんという訳ではありません。
乳がんのしこりの特徴として、触ったときに石のように固く、指で押してもあまり動きません。
自分で胸を触ってみて、疑わしいしこりがあれば、病院を受診しましょう。
- 乳房の形をチェック!
両腕を下げた状態で左右の乳房や乳首の形を覚えましょう。
- 観察しよう!
鏡の前に立ち、両腕を上げ、正面、側面、斜めから観察しましょう。「くぼみ」「ひきつっているところ」「かさぶた」「湿疹のようなただれ」などの症状がないか確認します。 - 仰向けに寝て確認!
【乳房の内側チェック】右腕を頭の後方に上げ、左手の指の腹で軽く圧迫しながら、滑らせるように、まんべんなく触れてみます。
【乳房の外側チェック】右腕を自然な位置に下げ、左手の指の腹で同じようにまんべんなく触れてみます。脇の下にも手をいれてしこりがないか確かめましょう。 乳がんにはできやすい場所があり、5~6割は乳房の外側(乳首と脇の間)にできます。この部分は要チェックです。
- 触ってチェック!
乳房を指先でつまむようにして調べると、異常がなくてもしこりのように勘違いしてしまう可能性があるため、必ず、指の腹を滑らせるようにして調べましょう。
- 分泌液がでていないか見てみよう!
左右の乳首を軽くつまみ、異常な分泌液がでていないかどうか見てみましょう。健康な方でも透明や白色の分泌物はありますが、赤色や茶色の場合は要注意です。
乳がんの発見契機は、主に「検診で偶然見つかる」もしくは「自分でしこりや分泌物に気付いて見つかる」の2つです。
そして、意外かもしれませんが、乳がんは一般的に進行の遅いがんです。自分でしこりとして触れるようになっても早期がんであることが大半です。
万が一しこりや異常を見つけたら、すぐに「乳腺外科」を受診しましょう。
乳がんの原因と予防
乳がんが発生する原因は、いくつかあります。中でも女性ホルモンに関連したものと、家系的・遺伝的なものが重要です。乳がんの主なリスク因子
・飲酒の習慣がある
・喫煙・受動喫煙の習慣がある
・出産をしたことがない
・授乳したことがない
・初経年齢が低い
・閉経年齢が高い
・初産年齢が高い
・家族歴がある
・成人期の高身長
・閉経後の肥満(※閉経前の肥満に関しては、医学的にはまだ不明です。)
・良性乳腺疾患になったことがある など
その他乳がんのリスク因子
●「BRCA1」や「BRCA2」遺伝子変異がある
乳がんの発症に関係している遺伝子は、すでにいくつも発見されています。
その中で、「BRCA1」もしくは「BRCA2」という遺伝子に変異がある人は、年齢が若くても乳がん・卵巣がんにかかるリスクが高いことがわかっています。
本人や家族でこの遺伝子変異が疑われる場合は、遺伝子検査や遺伝カウンセリングを行える医療機関に相談するという手があります。
●乳腺濃度が高い
乳腺濃度が高い場合、高濃度乳房(デンスブレスト)と呼ばれます。マンモグラフィーで異常が見つかりにくいという特徴があります。
高濃度乳房は病気ではなく、乳房の構成を指します。そのため、検診で高濃度乳房だった場合伝えられるべきかどうかは、議論が重ねられているところです。
●糖尿病を持っている
糖尿病の人は、糖尿病ではない人に比べて乳がんの発症リスクが高いことがわかっています。
セルフチェックをしっかり行い、定期的な乳がん検診を欠かさないようにしましょう。
乳がんの予防
乳がんの発生を予防する方法は、現時点で確立されたものはありません。
大豆イソフラボンがメディアで注目されてはいますが、医学的にはまだ効果が証明されておらず、過剰摂取による健康被害も起こりうるため、現時点では「野菜・果物・乳製品を含めて偏りのない食生活」を勧めます。
ただし、上に記載されている乳がんのリスク因子の中で、飲酒・喫煙・肥満に関してだけは自身で改善できるものです。乳がんに限らず全てのがんのリスク低下にもつながります。
ぜひ、タバコはやめて、お酒は1日1合まで、週に1日の運動習慣を作りましょう。
乳がんの治療
乳がんの治療は、乳がんの種類やステージ、転移の有無などの情報を元に決めていきます。治療に関する不明点は主治医に聞いて解消し、家族などとも相談し、納得した上で治療を受けましょう。主な治療法は、以下3つに分けられます。
・手術
・薬物療法
・放射線療法
※どの治療法をどのタイミングでどの組み合わせで行うかは、乳がんの種類や治療経過などによって異なります。
手術
乳がんができた場所によっても異なりますが、一般的にはがんの大きさが3 cmまでを目安に、乳房温存手術(がんの部分をくり抜く)か乳房切除術(全摘)かが決まります。
乳房温存手術は全国平均で6~7割です。乳房再建手術が保険適用となってからは、がんが小さくても乳房切除術をしてから乳房再建まで行う患者さんが増えてきています。
医学的な成績(予後)に関しては両者で差はないため、患者さんの希望も大事にしながら手術方法を決めることができます。
どの手術を受ける場合でも、リスクやメリットをしっかり医師に聞くことが大切です。
薬物療法
●化学療法
再発や転移を防ぐために、手術の前や後に化学療法を行う場合があります。
また、しこりが大きいために乳房温存手術を行えないという際に、術前化学療法でしこりを小さくしてから手術をするケースもあります。
●ホルモン療法(内分泌療法)
乳がんの診断の際には、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンについて検査が行われます。その結果、エストロゲンの活動性があり「ホルモン受容体陽性乳がん」だった場合には、エストロゲンの働きによるがん細胞の増殖を抑えるため、ホルモン療法が行われます。
ホルモン療法にはさまざまな種類があります。月経の有無、手術の既往など全身の状態から判断して、薬の使用や開始のタイミングが検討されます。
内服薬や注射薬などがあり、外来治療が可能です。
●分子標的治療
分子標的治療は、HER2陽性の患者さんにのみ適応となる治療です。
がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクの働きを抑える抗HER2薬を使用します。
放射線療法
放射線療法とは、放射線でがん細胞にダメージを与える治療で外来治療が可能です。手術後の再発防止を目的に行います。
照射部位の皮膚に変色や炎症が起こることがありますが、数カ月で自然と元通りに治ります。
薬物療法も放射線療法も、患者さんのがんの性質や進行度に応じて必要な治療が決まります。「乳がんの治療は患者さんごとに異なる」ということが重要です。
乳がん検診
乳がん検診を受ける頻度
40歳以上の女性は、2年に1度乳がん検診を受けることが厚生労働省により推奨されています。2年に1度でも、毎年検診する場合とほぼ同じ有効性が明らかになっているためです。
ただし、次回の検診までの期間にしこりや痛みなどの異変を感じた場合は、すみやかに乳腺外科に受診しましょう。また、セルフチェックは、年齢を問わず日頃から行いましょう。
マンモグラフィを受けるタイミング
マンモグラフィは基本的にいつでも受けることが可能ですが、月経開始後2、3日〜1週間後は乳房が柔らかく、検診に最適な時期です。
女性の乳腺は女性ホルモンの影響を受けており、特に排卵から月経が始まる時期までは乳房が硬くなっている場合があります。その時期にマンモグラフィを受けると、検査に痛みを感じることがあるため避けるとよいでしょう。
「再検査」と言われたら
乳がん検診を受けると、数%の方が要精密検査と判定されます。ただし、しこりなどの異常が発見されても、80%以上は良性です。もし乳がんと診断されても、早期に標準治療を受ければ、治すことは可能です。
「要精密検査」と判定されたら先延ばしにせず、早めに再検査を受けましょう。精密検査は、マンモグラフィや超音波検査などの画像検査、しこりのある部分から組織を採取し、顕微鏡で観察する細胞診、組織診が行われます。
医学の進歩と共に、小さな病変に対しても確定診断ができるようになり、乳がんは早期に見つけやすくなっています。良性と判断された場合でも、定期的な検査を受けて経過観察を行うことで、早期発見につながります。
参考
日本乳癌学会
・患者さんのための乳癌診療ガイドライン2016年版
・乳癌診療ガイドライン2018年版
- このコンテンツは、病気や症状に関する知識を得るためのものであり、特定の治療法、専門家の見解を推奨したり、商品や成分の効果・効能を保証するものではありません
- 専門家の皆様へ:病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください
「乳がん」に関するコラム一覧
急増する乳がん! その増加の原因と予防法は?
2020年04月01日
触診で乳がんをセルフチェックしよう! 早期発見に役立つ確認のコツ
2020年04月01日
知りたい乳がんステージ1の症状 再発と転移の確率はどのくらい?
2020年04月01日
「ビールの日」に学ぶ、お酒とがんの切っても切れない深い関係とは
2020年04月01日
意外と知らない乳がん検診のメリット・デメリット!正しく受けるには?
2020年04月01日
胸のしこりには良性と悪性がある!見分け方と簡単セルフチェック方法
2020年04月01日
「乳がん」に関するQ&A一覧
- 相談者:36歳/女性
- 相談日:2017年12月06日
心気症で現在は乳がんが不安な三児の母です。 11/24に乳腺の超音波を受けて異...
- 医師 の回答
- そんなに急に乳がんにはなりません。 検査をしてもいい...
- 相談者:37歳/女性
- 相談日:2017年09月15日
先ほど、乳がんと脇の下のしこりでご質問させて頂きました。 再度、確認させて頂き...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 腋窩のしこりに関しては...
- 相談者:37歳/女性
- 相談日:2017年09月15日
お忙しいところ、長々すみません。 4年前から左脇に米粒程度のしこりがあり、妊婦...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 悩ましく、とてもご心配...
- 相談者:39歳/女性
- 相談日:2017年09月05日
乳房の左上奥の方にプニプニしたような硬いようなしこりに触れます。 以前はなか...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。かかりつけの先生がいらっし...
- 相談者:34歳/女性
- 相談日:2017年08月20日
最近、CTスキャン等をしたので、マンモグラフィー以外で乳がんの検査をしたいのです...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 超音波(エコー)検...
- 相談者:女性
- 相談日:2017年08月06日
2年前より右乳頭より半透明の分泌。 また違うところより乳白色だっり、半透明だっ...
- 医師 の回答
- 6月に一通り検査をし、異常がないということであれば、あ...
- 相談者:40歳/女性
- 相談日:2017年06月02日
乳がん検診について。毎年乳がん検診を受けています。去年は8月に超音波を、一昨年は...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 去年の結果、異常な...
- 相談者:38歳/女性
- 相談日:2016年12月25日
先日、乳がん検診でのエコーで嚢胞あり、 定期的に検診をと言われました。 ...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 嚢胞が一日で消える...
- 相談者:女性
- 相談日:2016年09月29日
昨日の夜、寝る前に気づいてしまったんです。何となく右胸の下の方に鈍痛があり、押し...
- 医師 の回答
- ご相談ありがとうございます。 しこりがあったとのこと...
- 相談者:女性
- 相談日:2016年09月29日
こんばんは。昨日の夜、寝る前に気づいてしまったんです。何となく右胸の下の方に鈍痛...
- 医師 の回答
- お返事が遅くなりまして申し訳ありません。 胸のしこり...
- 相談者:30歳/女性
- 相談日:2016年08月23日
30歳の女です。 4〜5年前に乳がん検診で右乳に乳腺の拡張がみつかり、年に1度...
「乳がん」に関する体験談一覧
- 乳がんのリスクを下げる方法
- 乳がんの原因として大きく影響しているのが遺伝的要素で、この遺伝的要素に関しては決して変更することが出来ません。親からもらった遺伝子に変異が出ることです。BRCA1とBRCA2という2つの遺伝子に変異が現れた場合に、がん細胞として形成される確率がもっとも高くなります。 ただ、BRCA1やBRCA2遺伝子が存在するからと言って必ずしも乳がんになるとは限らず、結果として乳がんになる人がこの2つの遺伝子...
- 乳房の痛みが出たらすぐに乳がん検査を
- 乳がんは女性の癌発症の上位にあり、20~30代の女性にも多いといわれています。また、自分で乳房を触ることや鏡ど見たりすることがあまりないことから、気づきにくいと思います。 乳がんの発症に気いたのは、肩の痛みを生じたからでした。初めは肩の痛みを感じた為、肩こりだと思いマッサージに通いましたが、翌日に肩が上がらないほどの痛みを感じました。自分が乳がんだと思っていなかったので、不安でした。そこで、少し...
- 乳がんなのに乳房以外が痛いことも…
- 2013年の夏の暑い盛りに、7年前に患った乳がんが再発しており、初期では背骨に痛いという症状があり、腰痛が出たのかと思っていました。 接骨院に通い電気治療を行うも痛いのは改善せず、整形クリニックにて診断を受けるも、検査する機器がないのを理由に、紹介状により公立の総合病院を紹介されることになりました。痛い理由が腰痛であると思いこんだいたのですが、検査の結果を聞くと、乳癌がんが背骨に転移していること...
- 乳房が赤くなったら乳がんに要注意?
- 乳がんというと、自分で触診してしこりを見つけることができるので早期発見がしやすいイメージがあります。私自身、乳がんの症状といえばしこりだけだと思っていました。しかし実はそれだけではなかったのです。 私が乳がんになったのは5年ほど前のことです。特にしこりを感じていたわけではないですが、右乳房の下の皮膚が赤い状態になっているのには気づいていました。そしてその時はただの湿疹だと思って放置していましたが...
- 乳がんは早期発見が重要!初期症状(しこりは?痛みは?)
- 私は6年前の乳がんを宣告されました。幸い初期の段階で発見できたので完治することが出来ました。ですがあの時、違和感を感じることができなくて発覚が遅れていたらと思うと今でも背筋が凍ります。 私が最初に感じた初期症状は、なんだか胸が熱いような気がしたのです。熱を持ってるかな?と感じましたが放っておきました。しばらくしてお風呂に入るときに鏡を見ると、なんだか乳房が膨らんでるように感じました。太ったのかな...
- 乳がんで腫れてる部分があった
- お風呂に入っているとき、自分の乳房が腫れてるように感じ、触診してみたらしこりのようなものがありました。なんだか不吉な予感がして、不安でたまりませんでしたが、早く受診したほうがいいと思い、病院を受診しました。 検査を受け、医師の診断は乳がんといわれ、私は頭が真っ白になり、何も考えられなくなりました。これからのことを考えると、不安で不安でたまらなくなったのです。 ここから私の戦いが始まりました。ま...
- 鏡が教えてくれた乳がんの腫れ
- 若い頃から胸は大きい方だったので、子供が生まれて授乳するのにも、おっぱいは出る方で夜中の授乳なども楽でした。断乳の時には乳腺が張って辛かったりしましたが、そんなこともあったなぁというくらいのことで、あまり胸のことは気にしていませんでした。 たぶん胸の小さな人のほうが自分の胸を気にしたりするせいで、乳がんのチェックになるというお風呂などで入念に触ってみるということもするのでしょう。でも私は、実際の...
- 友人の乳がんの自覚症状
- 乳がんは早期発見ができれば、完治させることも不可能ではないがんの一つです。しかし、中には検査を受けないまま、後から気づいた時にはもうすでにがんが進行してしまっている状態であるようなケースも少なくありません。ですから、自分の中で、少しでも身体の異変に気づいたら、すぐに医療機関を受診することが大事になってきます。 乳がんの場合は、自覚症状として実際に自分の手で触って確認することもできるので、他のがん...