乳がんの症状

受診の目安として、乳がんにかかった場合は以下のような自覚症状が現れることがあります。

・乳房やわきの下のしこり(※自分で気づく症状としては最も多く、全体の7~8割です。)
・乳頭からの乳汁分泌
・乳房の皮膚の陥没、ひきつれ
・乳房が赤く腫れる
・乳頭や乳輪のただれ・びらん・湿疹など

少しでも乳房がおかしいなと感じた場合は、放っておかずに早急に乳腺外科を受診しましょう。

乳がんのセルフチェック


乳がんの早期発見のためには、セルフチェックも大切です。月1回ほど自分で胸を触って、しこりや異変がないか確認しましょう。

●乳がんのしこりの特徴
胸にしこりのようなものがあるからと言って、全てが乳がんという訳ではありません。

乳がんのしこりの特徴として、触ったときに石のように固く、指で押してもあまり動きません。

自分で胸を触ってみて、疑わしいしこりがあれば、病院を受診しましょう。

  1. 乳房の形をチェック!
    両腕を下げた状態で左右の乳房や乳首の形を覚えましょう。


  2. 観察しよう!
    鏡の前に立ち、両腕を上げ、正面、側面、斜めから観察しましょう。「くぼみ」「ひきつっているところ」「かさぶた」「湿疹のようなただれ」などの症状がないか確認します。

  3. 仰向けに寝て確認!
    【乳房の内側チェック】右腕を頭の後方に上げ、左手の指の腹で軽く圧迫しながら、滑らせるように、まんべんなく触れてみます。

    【乳房の外側チェック】右腕を自然な位置に下げ、左手の指の腹で同じようにまんべんなく触れてみます。脇の下にも手をいれてしこりがないか確かめましょう。 乳がんにはできやすい場所があり、5~6割は乳房の外側(乳首と脇の間)にできます。この部分は要チェックです。


  4. 触ってチェック!
    乳房を指先でつまむようにして調べると、異常がなくてもしこりのように勘違いしてしまう可能性があるため、必ず、指の腹を滑らせるようにして調べましょう。


  5. 分泌液がでていないか見てみよう!
    左右の乳首を軽くつまみ、異常な分泌液がでていないかどうか見てみましょう。健康な方でも透明や白色の分泌物はありますが、赤色や茶色の場合は要注意です。




乳がんの発見契機は、主に「検診で偶然見つかる」もしくは「自分でしこりや分泌物に気付いて見つかる」の2つです。

そして、意外かもしれませんが、乳がんは一般的に進行の遅いがんです。自分でしこりとして触れるようになっても早期がんであることが大半です。

万が一しこりや異常を見つけたら、すぐに「乳腺外科」を受診しましょう。

乳がんの原因と予防

乳がんが発生する原因は、いくつかあります。中でも女性ホルモンに関連したものと、家系的・遺伝的なものが重要です。

乳がんの主なリスク因子


・飲酒の習慣がある
・喫煙・受動喫煙の習慣がある
・出産をしたことがない
・授乳したことがない
・初経年齢が低い
・閉経年齢が高い
・初産年齢が高い
・家族歴がある
・成人期の高身長
・閉経後の肥満(※閉経前の肥満に関しては、医学的にはまだ不明です。)
・良性乳腺疾患になったことがある など


その他乳がんのリスク因子


●「BRCA1」や「BRCA2」遺伝子変異がある
乳がんの発症に関係している遺伝子は、すでにいくつも発見されています。

その中で、「BRCA1」もしくは「BRCA2」という遺伝子に変異がある人は、年齢が若くても乳がん・卵巣がんにかかるリスクが高いことがわかっています。

本人や家族でこの遺伝子変異が疑われる場合は、遺伝子検査や遺伝カウンセリングを行える医療機関に相談するという手があります。

●乳腺濃度が高い

乳腺濃度が高い場合、高濃度乳房(デンスブレスト)と呼ばれます。マンモグラフィーで異常が見つかりにくいという特徴があります。

高濃度乳房は病気ではなく、乳房の構成を指します。そのため、検診で高濃度乳房だった場合伝えられるべきかどうかは、議論が重ねられているところです。

●糖尿病を持っている
糖尿病の人は、糖尿病ではない人に比べて乳がんの発症リスクが高いことがわかっています。

セルフチェックをしっかり行い、定期的な乳がん検診を欠かさないようにしましょう。

乳がんの予防


乳がんの発生を予防する方法は、現時点で確立されたものはありません。

大豆イソフラボンがメディアで注目されてはいますが、医学的にはまだ効果が証明されておらず、過剰摂取による健康被害も起こりうるため、現時点では「野菜・果物・乳製品を含めて偏りのない食生活」を勧めます。

ただし、上に記載されている乳がんのリスク因子の中で、飲酒・喫煙・肥満に関してだけは自身で改善できるものです。乳がんに限らず全てのがんのリスク低下にもつながります。

ぜひ、タバコはやめて、お酒は1日1合まで、週に1日の運動習慣を作りましょう。

乳がんの治療

乳がんの治療は、乳がんの種類やステージ、転移の有無などの情報を元に決めていきます。治療に関する不明点は主治医に聞いて解消し、家族などとも相談し、納得した上で治療を受けましょう。

主な治療法は、以下3つに分けられます。
・手術
・薬物療法
・放射線療法

※どの治療法をどのタイミングでどの組み合わせで行うかは、乳がんの種類や治療経過などによって異なります。

手術


乳がんができた場所によっても異なりますが、一般的にはがんの大きさが3 cmまでを目安に、乳房温存手術(がんの部分をくり抜く)か乳房切除術(全摘)かが決まります。

乳房温存手術は全国平均で6~7割です。乳房再建手術が保険適用となってからは、がんが小さくても乳房切除術をしてから乳房再建まで行う患者さんが増えてきています。

医学的な成績(予後)に関しては両者で差はないため、患者さんの希望も大事にしながら手術方法を決めることができます。

どの手術を受ける場合でも、リスクやメリットをしっかり医師に聞くことが大切です。

薬物療法


●化学療法
再発や転移を防ぐために、手術の前や後に化学療法を行う場合があります。

また、しこりが大きいために乳房温存手術を行えないという際に、術前化学療法でしこりを小さくしてから手術をするケースもあります。

●ホルモン療法(内分泌療法)
乳がんの診断の際には、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンについて検査が行われます。その結果、エストロゲンの活動性があり「ホルモン受容体陽性乳がん」だった場合には、エストロゲンの働きによるがん細胞の増殖を抑えるため、ホルモン療法が行われます。

ホルモン療法にはさまざまな種類があります。月経の有無、手術の既往など全身の状態から判断して、薬の使用や開始のタイミングが検討されます。

内服薬や注射薬などがあり、外来治療が可能です。

●分子標的治療
分子標的治療は、HER2陽性の患者さんにのみ適応となる治療です。

がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクの働きを抑える抗HER2薬を使用します。

放射線療法


放射線療法とは、放射線でがん細胞にダメージを与える治療で外来治療が可能です。手術後の再発防止を目的に行います。

照射部位の皮膚に変色や炎症が起こることがありますが、数カ月で自然と元通りに治ります。

薬物療法も放射線療法も、患者さんのがんの性質や進行度に応じて必要な治療が決まります。「乳がんの治療は患者さんごとに異なる」ということが重要です。

乳がん検診

乳がん検診を受ける頻度


40歳以上の女性は、2年に1度乳がん検診を受けることが厚生労働省により推奨されています。2年に1度でも、毎年検診する場合とほぼ同じ有効性が明らかになっているためです。

ただし、次回の検診までの期間にしこりや痛みなどの異変を感じた場合は、すみやかに乳腺外科に受診しましょう。また、セルフチェックは、年齢を問わず日頃から行いましょう。

マンモグラフィを受けるタイミング


マンモグラフィは基本的にいつでも受けることが可能ですが、月経開始後2、3日〜1週間後は乳房が柔らかく、検診に最適な時期です。

女性の乳腺は女性ホルモンの影響を受けており、特に排卵から月経が始まる時期までは乳房が硬くなっている場合があります。その時期にマンモグラフィを受けると、検査に痛みを感じることがあるため避けるとよいでしょう。

「再検査」と言われたら


乳がん検診を受けると、数%の方が要精密検査と判定されます。ただし、しこりなどの異常が発見されても、80%以上は良性です。もし乳がんと診断されても、早期に標準治療を受ければ、治すことは可能です。

「要精密検査」と判定されたら先延ばしにせず、早めに再検査を受けましょう。精密検査は、マンモグラフィや超音波検査などの画像検査、しこりのある部分から組織を採取し、顕微鏡で観察する細胞診、組織診が行われます。

医学の進歩と共に、小さな病変に対しても確定診断ができるようになり、乳がんは早期に見つけやすくなっています。良性と判断された場合でも、定期的な検査を受けて経過観察を行うことで、早期発見につながります。

参考


日本乳癌学会
患者さんのための乳癌診療ガイドライン2016年版
・乳癌診療ガイドライン2018年版